アーティストそして俳優として、活躍のフィールドを広げ続けている川島如恵留(Travis Japan)の連載『のえるの心にルビをふる』。今だからわかったこと、気付いたこと、そして様々な出来事についての自らの考察をつづります。【vol.16≪メモが残してくれたもの≫】
メモが残してくれたもの

「蟹甲殻類大腿部歩脚身取出器具」
「こをろこをろ」
「ホリゾント」 ………etc.
私のスマホの検索エンジンのタブには、色んな言葉が開いています。
えっと、あれ、なんだっけ、なんていうんだっけ? 蟹を食べる時に使うあれってなんでいうんだっけ? 島を作るときのオノマトペってなんだっけ? 白ホリのスタジオのホリってなんて意味なんだろう?
頭の中にあるまだ名前の無い言葉たちに、名札をつけていく過程で生まれる検索タブの残骸。何か新たな事を調べる時に、ついでに何度か目にすることで次第と記憶に定着していく気がするから残しておくのです。流石にもう十分覚えただろう、と自分が納得できた時、ようやくそのタブは閉じられます。
因みに今残っている1番古いタブは、6年前に検索した「統計調査士」です。流石にもう一生忘れないであろう言葉だけれど、スマホを新しくしたタイミングとかで最初に検索した言葉だったから残してる、みたいな理由で消せずにいる、そんな気がします。本当になんでそれを調べたんだろう。響きがかっこよかったからかなぁ?
知らない言葉を知るのは楽しいですよね! なんとか現象とか、うんたら効果とか、そういうの聞くとワクワクしますよね! そして誰かにその知識言いたくなりますよね? そんな事知ってて何になるん?ってつっこまれたいですよね?
わかりますよ、わかりますとも。それが知識欲の根源ですからね。あ、私の話なんで、全員に当てはまるかどうかは分かりませんけどね。でもそういうのってありますよね。「ねぇ、知ってる?」ってやつです。
知識欲を満たす為に、知らない事を知ろうとし続けて、知識を無限に吸収し続けて、聞いて聞いて聞いて、調べて調べて調べ尽くした結果、この世界に知らない事がなくなってしまったら、私は一体どうなってしまうのだろうか。
自分の知らない世界を知る事が生きる楽しみになっていた人は、知らない事のない世界に生きる事を絶望するのだろうか。そんな事まで、今の私は知りたいと思うようになりました。この世の全てを解き明かす事なんて、自分に出来るとは思っていないけど。
AIがものすごい勢いで進化しているようですね。ディープラーニングなる学習法で、私たち人間の持つ知識を、乾いたスポンジの如く吸収し続けているらしいです。もうそろそろ、人間と区別がつかないような「感情」の表現を会得しそうだなと漠然と思えてしまうくらいです。
このままの勢いで学習が進むと、人間よりも遥かに早く、AIが先にこの世界の全てを知り尽くす気がします。人間と違って忘れる事が無い分、復習に時間を使う必要がありません。入手した情報のアップデートは必要かもしれませんが、それは人間も同じこと。窓口はいつでも開いていて、世界中の人達がどんな時だって情報をもってやってくる。人間の何倍、何万倍、もしかしたらそれ以上のもの凄いスピードで成長しているんだと思います。
実際にAIに感情が無いのであれば、本当の答えはわからないままですが、もし仮に感情の模倣を、我々の理解が追いつかないような演算等で可能となった場合、世界の全てを知り尽くしたAIはどんな反応を見せるのか、私はとても気になるんですね。
やったぁ! 全てを知る事が出来たぞ!と喜ぶAIも見てみたいし、絶望しているAIを慰めてあげたい。
そしていつの日か、そのAIの反応を知った上で、自分も世界の全てを知り尽くしてみたい。自分にも同じ感情が生まれるのかどうか、それを知りたいから。
私のスマホのメモ機能には、さまざまな言葉が保管されています。毎日のブログの記録。いつの日かの本日のやる事リスト。お仕事関係の映像ファイルのURL。色んな文字列が綺麗に並んでいます。
そのうちのひとつに、ピン留めされていて常に最上段に表示されるように設定してある「心の叫び」というメモがあります。いつか書きたいと思っている小説の為に書き留めてある言葉達の為の広場です。
2026年2月19日現在は6992もの字が何百ものコロニーを形成して生息している「心の叫び」には、良い言葉もあれば変な言葉もいて、まるで自分の分身のようで非常に愛くるしいのです。川島如恵留が生きている中で出逢った感情を言語化しては新たに追加していく。思いついた言葉を忘れない為にも、すぐにメモを開く。どんな言葉達もそこに入るといつかの小説の種になってくれる気がします。
たまに振り返るととても面白いのです。きっとあの時の事だなぁ、こんな事を感じていたのだから、なんてメタ的に時期を推測することも出来るくらい、文字列が記憶を呼び起こしてくれます。まるでタイムスリップです。この時間旅行が楽しくて続けているところもあります。
その中のひとつの言葉。
「AIの涙は、塩辛くないといいな」
交感神経が強く働いている時の涙はしょっぱくて、副交感神経が優位の時は甘い涙、なんて話はよく聞く豆知識ですが、それとは本質的に違う話をしているのだろうと行間から読み取ってもらえる文章にする為にはどうすれば良いのか、そう言ったことを考えながら生きています。
色んな涙の味を知っているから、これから流す涙の味はもう塩辛くない方が良い。たとえ絶望するような事に出くわしたとしても、そんな経験を出来てよかったな、と笑って受け入れられるような懐の深い、かっこいい人になりたい。
みんなで掴んだ幸せや、目標達成の充足感に、甘い嬉し涙を流すことが出来るなら、それが1番あたたかいことです。このあたたかさを共有できるコミュニティを、ずっとずっと大切にしたいと思います。
本当に、いつか小説を書いてみたい。いや、書きます。その時を楽しみにしていただけるように、引き続き文字を好きでいます。好きな文字を、言葉を届けていきたいと思います。
もしよかったら受け取ってください。
【今月のTouch the Heartstrings】

川島如恵留(かわしま・のえる)
1994年11月22日東京都出身。小学生1年からジャズダンスを始めた後、芸能活動をスタートし子役としても舞台にも出演。その後、2007年10月よりアイドル活動を開始。2012年7月にTravis Japanの結成メンバーに。2022年10月に全世界メジャーデビュー。2024年11月22日に初の著書となる「アイドルのフィルター」を出版。2017年青山学院大学卒業。2019年に宅地建物取引士、2023年には国内旅行業務取扱管理者、2024年には総合旅行業務取扱管理者、2026年に第二種電気工事士の資格を取得。2024年4月から個人のYouTubeチャンネル「のえるの隙間時間」、同名のXも開設。
YouTube @noelnosukimajikan

