日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第58回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その58『なぁんもだ』
秋田生まれの秋田育ち! 秋田のお仕事お任せあれ!…と言いたいが言えない。何故なら秋田の横手市生まれというのは本当に生まれただけ。あとは里帰り出産&産休を取っていた母の仕事復帰のタイミングに合わせ私も東京にやって来て、共働きの母と父がどうしようもなく忙しいときだけ祖母と秋田で暮らしていたという内情を公表しているからだ。「エセ秋田県民」と自他共に認定。更に秋田の学校に通っていないのに秋田の生まれって言って良いわけ?と突っ込まれた。しかし、秋田や東北に縁ある者という大らかな理解を示して下さる方々も多く、ありがたい。昔も今も「お祖母ちゃん子で秋田には縁があります。良かったら使って下さいね」的なテンションで、控え目に手を挙げている状態だ。
そんな秋田の方言…特に南部で使われる言葉で、私が大好きなフレーズがある。いくつかあるが、かなり上位にランクインするのが「なぁんもだ」だ。意味は「気にしないで」「そんなことないよ」「大丈夫」「いいからいいから」など。相手に対して寛容な気持ちを見せるためには欠かせない秋田弁だと考える。「待たせて申し訳ない」「なぁんもだ」、「手間をかけさせちゃったね」「なぁんもだ」、「迷惑かけたよ、大変だったよね」「なぁんもだ」…と、なぁんもだ、と言うと相手がとりあえずはホッとしてくれる傾向がある。ちなみに発音は今は亡き志村けん氏のネタ「だいじょうぶだぁ」と同じと考えていただきたい。小さい「ぁ」がいいクッションになる。
ひとりでいても、モヤモヤしたらとりあえず「なぁんもだ」と言ってみる。寛容でいなきゃ、イライラしたくない、でもそう思えば思うほど切羽詰まることはないだろうか。ちょっとした事案に「なにそれ?」とも考えちゃいけないんだと、怒りの感情を抱く自分に自己嫌悪を抱いたり。だから理不尽な「モヤモヤの波」に呑まれがちになる最近の世の中で、1人でつぶやく「なぁんもだ」は何処か抽象的で、私にとっては気持ちを落ち着ける言葉として大切にしている。世の中の理不尽の多くは己の力ひとつで即解決出来ないようなことばかりだし、なぁんもだ、で気分転換になるならまぁいいか、と謎のゆとりができるのだ。
「なぁんもだ」、さあ、ご一緒に。
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