日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第53回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その53『クレメンス』
古くは「あたり前田のクラッカー」や「よっこいしょういち」「わけわかめ」「冗談はよしこさん」などのダジャレが飛び交っていた我が国では、いまだにどんなダジャレでも円滑な交流のために苦笑しつつも受け入れ、時には思い出したように使用する(そして照れる)優しい文化が残っていがちなことを誇りに思う。
露骨に「バカなこと言ってる」とスルーしたり、冷たくあしらうような態度を示す人々もいるが、ダジャレはちょっと恥ずかしいけど何だかほっこりするもの、そして記憶に残りやすいものと感じている方がまだ多いと信じている。
個人的には我がマネージャー(50代男性)の教えてくれた「壁に耳あり クロード・チアリ」が非常に好きだ。クロード・チアリ(78歳)はフランス生まれで日本国籍を持つギタリスト。本名は智有蔵上人という。フランス人のクロード・チアリでも日本人名の智有蔵上人でもちゃんとそれっぽく聞こえるのが凄い。16歳からパリ証券取引所でエンジニアとして働きながらギターをつまびき、バンドを結成。ヨーロッパで人気がでて本格的にプロギタリストに転身…というそんな彼も、「壁に耳あり~」の後に自らの名前がくっついてダジャレになろうとは予想していただろうか。
人名つながりでいうと、最近(?)では「教えてクレメンス」「その機械に接続してクレメンス」「あっちの新しいのをクレメンス」という「~クレメンス」がネット用語として生まれ、会話中にも出現する様子がしばしば見られる…のは私の周囲だけか? いや、クレメンスは要求やお願いをダジャレに包んで柔らかく伝える効果があると思う。親しい間柄の人々とは使っていきたいなぁ、と思わせるポテンシャルを持つ言葉として限定的だがおすすめしたい。
ちなみにクレメンスはウィリアム・ロジャー・クレメンスというアメリカ人メジャーリーガー(元投手。現在59歳)。功績でも私生活でもいろいろな意味で豪胆な彼(ヤンチャでは片付かないようなオイタしてます)は、現役を退いてもいまだ鍛錬を欠かさぬという。
これを書いてから思った。今後クレメンスを使うときは丹田にフンと力を入れて使おうと。何となくだが。
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