一人暮らしを始めてから内装で冒険をしたことはないという田中みな実さん。その理由は“あの頃の選択”――【連載「田中みな実のここだけ話」】
今回のテーマ:ピンク色のランドセル
姉が子供の入学式の写真を見せてくれた。小さな体にピンクのランドセルを背負ってどこか誇らし気に桜の木の下で顔を作っている。それにしても目がチカチカするようなピンクだわね…これ、小6まで使えるの?と叔母ちゃん、老婆心ながら言ってやりたくなる気持ちをグッと堪える。今はランドセルも色を選べる時代らしい。でも6年通して使うことを見据えて色選びをするなんて6歳やそこらの子供にできるはずがない。そうかといって大人が素敵だと思うキャメルやネイビーを選べば子供はヘソを曲げるじゃない? 昔は女子は赤!男子は黒!と決まっていたのにね〜。とぼやいてみるも、幼少期のほとんどを海外で過ごした私にとって、ランドセルは馴染みがなく大した思い入れもない。でも、選べたなら私も何が何でもピンクが良いと譲らなかったと思う。
中学に入りたての頃だったかしら。家を新築するときに自分の部屋の壁紙を選んでいいと親に言われ、嬉々として派手なピンクの渦巻き柄を希望して家族全員に却下されたのを思い出す。「私の部屋なんだから自分の好きなようにしていいでしょう!」と駄々をこね、最終的には内装屋さんのおじさんに説得されて壁紙は限りなく白に近い淡いピンクに、その代わりカーテンは濃いめのピンクにすることで手を打った。ところがいざ出来上がった部屋に入ると、全体の眩いほどのラブリー感にギョッとしてひとたび後悔した。壁紙にキズがつけばまた選び直すことができるのではないかと、爪でひっかき傷をつけて大騒ぎしてみたけど、数センチ四方を切り抜いて張り替えるという簡単な作業で済んでしまった。浅はかで小狡い。あのときの失敗からか、一人暮らしを始めてから内装で冒険をしたことはない。自分だけの空間で、誰にケチをつけられるわけでもないのにどこまでも無難な方を選んでしまう。
新学期が始まって数か月。姪は真っピンクのランドセルを買ってもらったことを既に悔やんでいるだろうか。ボロボロにして新しいのを買ってもらおうなんて悪知恵を働かせたりする日が来るのだろうか。
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