この春、無事に第一子を出産した紺野ぶるまさん。そして実は産んだのは赤ちゃんだけではなかった! 4月、初めて執筆した小説『特等席とトマトと満月と』を発表するのです。小説とお笑い、その創作への思いを聞きました。
>>紺野ぶるま 産むか仕事か「考えるほどにムカついた」――両立への決意語る
芸人であろうとすると、自分が女なのか男なのかわからなくなってしまう
構想と執筆に約2年半かけた小説がついに完成。女芸人の等身大の姿を描く本作、読んでいると主人公とぶるまさん自身が重なってくるけれど、これは決して私小説ではない。
「小説を書いてみなよ、そう編集者の方に言っていただいたとき、だったら女芸人の話しかないと思ったんです。就職もしたことがなくて、ずっと芸人しかやってこなかったから、これしか書けない。主人公の背格好は私に似ているかもしれないですが、全然、これは私ではないんです」
恋をして、普通の女性になってしまったら面白くいられなくなる、そんなふうに悩む主人公の姿が描かれています。
「芸人であろうとすると、自分が女なのか、男なのか、わからなくなってしまうことがあるんです。こちらは『芸人』として登場しても、お客さんはあくまで『女で、芸人』として見る。それで難しくなってしまって。その感覚を言葉にするのは大変でしたね。そして性的なシーンを書くことには特に苦労しました。普段芸人として、下ネタを言ってますけど、それとはもう全然違う! 下ネタを言うときは、カラッと、想像させないように言う。『それ意味わかって言ってる?』っていうくらいあっけらかんと。けれど小説はもっと湿った、滴したたるような汁っ気を含んでいるリアルな感じにしたかったんです。だから最初に編集者に原稿を見てもらうときは、もう裸を見せるくらい恥ずかしかったです。けど、恥ずかしがってもしょうがない、編集者はきっとこんな原稿見慣れているはず、医者に裸を見せるのと一緒だ、えいって、毎回送っていましたね」
混沌とした舞台裏、安居酒屋で芸人たちがお酒を飲んで語らうシーンなど、当事者でしか知り得ないディテールとリアルな描写も印象的です。
「お金がないんで、カップラーメン食べてお腹を満たしてから、一番安い店に行くっていう芸人を見たことがあって。そういうシーンはかなり楽しく書けましたね。登場人物のなかにはモデルがいる芸人さんもいますけど、かなり想像をふくらませた感じなので本人とは離れているかも。でも、物語を進めるにあたって、自分が体験したことのないシーンも書かないといけない。そこも苦労した点です。主人公が『イイ男の、イイ部屋』に行くシーンがあるのですが、私『イイ部屋』に行ったことないので描写できなくて、『タワマン 内観』と入力して画像検索して書きました(笑)」
全編を通して自分が納得いくまで、書いては直すを繰り返したそう。
「特にラストの章は何回も直しました。ネタを書くのとは頭の使い方も違うし、生まれて初めての経験で、産みの苦しみもありましたけど、書くことは楽しかったですね。まだちょっぴり恥ずかしいけど、純粋に見てもらいたい気持ちです。特にGINGER読者の方には立場は違っても、共感してもらえる場面もあるんじゃないかな。そうだったらうれしいです」
ちなみに…今の自分を作った本といえば?
『ゲスな女が、愛される。』(心屋仁之助 著/廣済堂出版)
なんかGINGERっぽくなくてすみません。でも心屋さん、しみるんですよね…。母親とのことも書いてあってバイブル的に読んでいます。
『僕がコントや演劇のために考えていること』(小林賢太郎 著/幻冬舎)
芸人として舞台ですぐ使えることが書いてあって実用的。脳の使い方とか、ネタを書く習慣とかもすごく勉強になりました。参考にさせてもらっています。
『どうしても嫌いな人 すーちゃんの決心』(益田ミリ 著/幻冬舎文庫)
益田ミリさんは全部持っています。特にこれ、泣きましたね。さらっとした絵なのに、メッセージ性が強い。さらさらしているのにずどんとくる。
紺野ぶるま(こんのぶるま)
1986年9月30日生まれ、東京都出身。大人のなぞかけで話題に。R-1グランプリ、女芸人No.1決定戦 THE W、ABCお笑いグランプリ決勝進出。この春に第一子を出産。