日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第51回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その51 『さしずめ』
「さしずめフラれたんやろ」というフレーズを耳にした。さしずめ…久しぶりに聞いたような気がする、とフラれてからどうなった的な展開より、さしずめに気持ちが向いてしまった。さしずめは「差し詰め」と書く。「さしづめ」でも間違いではないらしい。
意味は大きく分けてふたつ。ひとつは「現時点で考えられる可能性として」の意味。「明日は雪だというがタクシーが手配できたので時間はかかれどさしずめ移動には困ることはなさそうだ」と使えば、どこにも移動できない可能性はきわめて低いのが伝わる。もうひとつは「当てはまりそうなものを探して結果として言うなら」の意味。「友人の兄は友人を溺愛し過保護に接するあたり、さしずめお姫様を守る騎士といったところだろう」と使うと、頼もしくもちょっと過剰に愛を注ぐ兄の姿が目に浮かぶ。思春期に憧れたマンガ的展開だったなぁ。
しかし、さしずめは「つまり」や「要は」「要するに」と同じくらいかそれ以上使い方が難しいように感じる。さしずめやつまりを言ってしまった後、次に続く一言はちゃんと「精査されて手短に分かりやすく」伝わるものでなければいけないというプレッシャーがのし掛かるのは、私に語彙力がないせいかもしれないが、それまでの話を聞き頭のなかで整理された一言を即時に出すのが得意ではない。ついつい「え? それって~って感じ?」とかなり曖昧で自己流にまとめた言い方に変えてしまう。相手と答え合わせしながら伺っていくスタイルの方が「さしずめって言っときながら差し詰められてないよ」と思われなくて楽だから、というのが見え見えだ。
使う前に緊張しながら襟を正して引用する言葉。しかし、正しく使えたらカッコいい…さしずめ。ちなみに、今ではあまり使わないがもうひとつ「かつて使用されていたさしずめの意味」があるようだ。それが「直接関わる様子」だという。「昨日街で見かけた彼女は上司の取引先の方らしく、私にはさしずめな時はほとんどなかった」のように使うようだが。さしずめな時って何?と聞かれそうで使いにくいなと正直思った。
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