日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第47回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その47『お姉さん』
名前を知らない女性を呼び止める用事があったとき、どうしたらいいのか…そんな話をスタッフ殿たちと交わしていた。あらかじめ出会った面々には名前を聞いてしっかり覚えておくのが最善だ、という正論をかざす者は誰もいなかった。皆、名前を聞きそびれた、または忘れてしまったなどのっぴきならない事情を経験しているからだろう。世の中正論だけではまかり通らない良い例だと思う。相手にとって失礼なことかもしれないが、大人になり、やることが増えて、日々色々なことに向き合う暮らしをしていたら「まあ、仕方ないよね」と多くの者が許容する範囲の出来事だろう。名前を失念するなんて! と、烈火の如く怒る方もいるだろうが…。
「お姉さん、と呼べばいいと思う」と提案したのは、我が男性マネージャー(50代)だった。彼は何かの番組で「自分より年上でも年下でも、その女性に失礼するつもりはないですよと伝わりやすい呼び方は『お姉さん』なのではないか」という説が展開されている様子を観て、納得したという。お嬢さん、でもいいかもしれないがキザな雰囲気もあるし、一定の年代の方々からすると「某有名司会者が頻繁に使う女性を呼ぶ手法」…というイメージがあるだろうからやはり「お姉さん」の方が良しとされたらしい。
確かに「姉」は仏教の戒名として故人が女性の場合に使われたりもする。意味をひもといても、親が同じで自分より年上の女、という解釈以外にも、「女性に親しみを込めて呼ぶ際に使われる」とあった。お姉さんならばかなりの確率で呼び止められ、失礼に当たらない…そんな世の中だといいなとしみじみ感じてしまった。
応用として、「水色のシャツを着たお姉さん」「自転車おしてるお姉さん」「ピンクのエコバッグ持ったお姉さん」などの相手を特定するアイテムを添えて呼んだら振り返ってもらえる率は更にアップするかもしれない。間違っても「パーマネントが個性的なお姉さん」とか「バッチリメイクの眩しいお姉さん」などのネガティブ要素を枕言葉に付けないように。
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