日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第45回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その45『逆に』
「逆に、ここはアイスコーヒーでしょ」「それな」。先日コンビニにいたら青年2人が話している声が後ろから聞こえた。私はおにぎりコーナーの前で商品を物色していたのだが、背後の青年たちは飲み物片手にレジへ向かう最中だった。「逆に、ここはアイスコーヒーでしょ」と言った青年の言葉だけが残り香のように私にへばりついてくる。逆に、は一体どこからやってきたのだろう。「それな」はその意見に同意したという表現なのは分かるが…。逆にって、何だろう…と改めて感じた瞬間だった。ちなみにおにぎりコーナーでは高菜明太子おにぎりを選んだ。
逆に。「反対に」という意味。いきなり使われると、否定からきたなぁとちょっとブルーになる受け手もいるようだ。現在、世間で会話中に使われている「逆に」は「反対に」という意味よりも「むしろ、それより、かえって、それならば」等の代案的な言い方で頻繁に使われているようだ。 「私が住んでいる場所は公園が近くて昼間は非常ににぎやかだ。逆に、夜はとても静かである」という使い方なら「逆に」に違和感を覚えない。前後の文章が反対の意味を持っていないとそもそも使えない。
調べてみたが本来はそこまで頻繁に使われる表現法でもないようだ。もし「ホットも悪くないけどさ、逆に、ここはアイスコーヒーでしょ」と言われたら「逆に」以外の言葉で言われたいなと感じるかもしれない。若人には自然な会話かもしれないが、私のような昭和生まれにはどうにも否定的すぎて使いにくいのが現在の「逆に」、だ。私だけなのだろうか。ガラスのハートを持つ中年壇蜜は「ホットも悪くないけどさ、どっちかというとアイスコーヒーかな」と言いたいし言われたいのだ。
会話中、「逆に」が妙なムードを作ってしまうこともあるかもしれない。簡単に否定の強度が高い言葉をさらりと言う前に、類似する言葉をいくつか脳内にひかえておいて「逆に」に頼らない人として生活していきたい。 その「逆に」、どっから持ってきたの?と混乱しない、させない運動は始まったばかりだ。
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