日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第44回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その44『ゆめゆめ』
あるマンガ(時代背景はやや昔)を読んでいたら、「ゆめゆめそのようなことは考えておりませぬ」という台詞が出てきた。はて、「ゆめゆめ」とはどんな意味だったかなと調べてみたら、「ゆめ」というのは「夢」ではなく「努」と書くこともあるという。しかも、意味も「夢」とは異なる。ドリームではないのだ。「決して」「必ず」「少しも」「気をつけて」などの意味がある。努の後ろには禁止や打ち消し、警告などの厳しめな文章が続く場合が多い。そして「努」単品でも使われる。例えば「努慢心してはいけない」とも言う。「決して慢心してはいけない」という意味だ。更に「努々慢心してはいけない」となると「決して、絶対に、慢心してはいけない」と慢心への注意が強まる。
「努」自体にも「できるだけ心と体を使ってつとめて」という意味があるので、イメージはしやすいだろうか。前述の「ゆめゆめそのようなことは…」は「これっぽっちも考えていない」と伝えたかったのだろう。「ゆめ」という言葉の隠れた一面を垣間見たような気がした。ゆめゆめ、現代ではなかなか使いにくいかもしれない。言ったところで伝わらない可能性もあるし、ドリーム?と勘違いされる危険もある。しかし、書き言葉として丁寧な表現を心がけたいときには使えるような気もする。「絶対に」「決して」「断じて」では強すぎるなと感じた際に「努々」を用いたら少しは柔らかな口当たり…じゃなかった、読み心地にならないだろうか。
「努々日々の体調管理を惜しみませぬよう」なんて言ったら「いつの時代だよ」と思われるかもしれないが、「決して」相手に過度な角は立たないだろう。お疲れ様が目上の方に失礼かもしれない問題で、「お疲れの出ませぬように」が時代をこえて採用されるように、努々を使って失礼を避ける手法を頭に入れていてもきっと邪魔にはならない。ゆめゆめ忘れることなかれ。ちなみに当方、絶対は絶対にないという偉人の遺した言葉には激しく同意する。「ゆめゆめそのようなことは考えておりませぬ」なんていまいち信用できない。
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