ひとり旅は自分をリセットさせてくれるかけがえのない時間。これまでの旅の経験から、考えたことや感じたこと、学んできたことを綴る連載『ひとり旅×松本まりか=THINK CLEARLY』。
旅に支えられていたと言っても過言ではないくらい旅好きの私ですが、今はなかなか外に出ることができません。コロナ禍というのもありますし、この1年半はとにかく目まぐるしく働いていました。目覚めた瞬間から眠る直前まで、常にオン状態。ため息をつく間もないほど、仕事漬けの日々でした。今までの20年分の仕事量を1年半でやりきってしまったような感覚です。
何もかも初めてのことばかり。初めてのバラエティ番組、初めてご一緒する方々。お仕事の種類は多岐にわたりました。私は仕事に飢えていたので、すべてやりたかった。限界までやってみたかった。その先に、どんな景色が広がっているのかをこの目で見てみたいという好奇心もありました。
旅以上の大きな変化を求めて
環境は激変しました。最高の瞬間をたくさん迎えているのに、向き合う時間がありません。これまでしてきたように、本当は一つひとつの仕事に万全の準備をして、出会いにちゃんと感動し、味わい、噛み締めたいのに、反芻する間もなく次へ次へと進まねばなりません。
インプットの時間がなく、これまでの貯金で勝負せざるを得ませんでした。主演のお仕事をいただいても、うれしさよりも「今の自分にできるのだろうか」という不安のほうが勝ってしまう。そんな自分を私は責め、心は少しずつ蝕ばまれていきました。
こんなとき、旅に出ることができたら、エネルギーをチャージできたのかもしれません。けれども、私はもっと劇的な大きな環境の変化を求めていました。そして今年、突然引っ越しを決意したのです。
ここにいてはいけない。
それは何かに突き動かされるような衝動でした。ここから私は抜け出さなければ…!
それまで約5年半住んでいた部屋は、1年かけて吟味に吟味を重ねて見つけた家でした。築年数は古いけれど味わいがあり、とても気に入っていたので、急な心境の変化に自分でも驚きました。
どこよりもフィットした空間で
新居の決め手は直感です。当初思い浮かべていた条件とは異なっていたのですが、その物件を見た途端、「ここだ」と思いました。実際に部屋に足を踏み入れたとき、自分にフィットするのがわかりました。
「これ以上でも以下でもない。ここしかない」。
細胞レベルでその判断は下されました。1ミリの誤差もなく、その部屋が今の私の腑に落ちたのです。
家は心身を休めるのに大切な場所です。けれども、ただ居心地がよく、だらりと怠けられる所にはしたくなかったのです。すっと背筋が伸びる、自分の一番いい状態をキープできる家。
引っ越す前に私は禅寺に行ってみたいと思っていましたが、その必要はなくなりました。この部屋に帰ることで一日の間に取り込んでしまった不純なものが抜けていくのがわかります。
クリアな自分を取り戻す。そうやって日々自分を整え、自分軸を保つことで、猛スピードで進む仕事の先回りをし、全力で向き合うことができる。ホップ・ステップではなく、大きな変革、大ジャンプをするときなのだと私は悟りました。
Marika’s Memories/日々の記録
松本まりか(まつもとまりか)
女優。ドラマ『ホリデイラブ』の井筒里奈役で一躍注目を集める。2020年は『竜の道 二つの顔の復讐者」『妖怪シェアハウス」『先生を消す方程式。』『教場Ⅱ』など8本のドラマに出演。初主演となる連続ドラマ『向こうの果て』(WOWOW)が放映中。
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