日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第42回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その42『よきところで』
「よきところで」と言われて、「はい」と支度をしたり現在進行している作業を中断したりするのだが、「よきところで」は考えれば考えるほど「それは、一体いつなんだ?」という疑問が深まるのは気のせいだろうか。私はそこまでこだわる訳ではないが、「よきところで」と言われたら、言ってきた相手が「よきところ」と判断したのだろうから極力従うことにしている。 「よきところで」と言われて「あと10分くらいください!」と言ったら、それはそれで問題になりそうだから。
この、よきところで問題。日本語を学ぶ外国人にもなかなかの難解な言葉だという。日本語のここが難しい…的なインタビューを聞いて回る番組でも見かけたことがある。「よきところで、は決して私のよいと思ったタイミングではないから解釈が難しい。相手の意図が伝わりにくい言葉でもあるような気がします。よきところで、何をしたらいいのかなぁって」と正直に語られて、いやはや申し訳ないという気持ちになった。言わなくてもわかるでしょう精神がここで弊害と化しているとは。
よきところでの代替案をマネージャーと考えたことがある。私は何故だかふと「ミル姉さん」のことが思い浮かんだ。ご存じだろうか。タレントの内村光良さん扮する牛の模様をしたセクシーなお姉様で、いつもラグジュアリーな部屋の豪華なソファーに座り、細いタバコを持っている。口調もお姉様、仕草も思わせぶりで「何故牛なのか」という素朴な疑問も吹き飛ぶ。ミル姉さんは日常生活で起きたことを色っぽく話して終わるという内容なのだが、終わる間際には必ず黒服にサングラスのエージェント的な殿方がドアをノックして開けて、「ミル姉さん、そろそろ」と言う。ミル姉さんは何も言わず頷くだけだが、妙にツーカーなムードがうらやましくなって、マネージャーに「よきところで、より、そろそろのほうが大人っぽいと思います」と進言した。それ以来マネージャーは私に、移動や今していることを止めさせたいときは「そろそろ」と言う。非常に分かりやすい。今後もそろそろをそろそろと推していく所存だ。
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