「個」では生み出せないパワーを発揮する「コラボ」の魅力を特集したGINGER8月号に、8作目となる絵本を発表した西野亮廣さんが登場。作家としての純粋な想い、そして西野さん流コラボレーション術を伺いました!
コピーできないものにする。そのために重要なこと
原作・製作総指揮をつとめた映画『えんとつ町のプペル』が大ヒットした西野亮廣さん。そのえんとつ町を舞台にした新作絵本『みにくいマルコ〜えんとつ町に咲いた花〜』が完成。本作を作る際も、西野さんはコラボレーションを意識したそう。
「自分一人の頭のなかから出ただけのものっていうのは基本的にコピー可能なんです。まもなくコピーされてしまって、たくさんあるなかの1つに埋もれてしまう。そうなるとオリジナルとしての価値がなくなってしまう。コピーできないものにしなければならない、っていうときにコラボレーションって非常に効いてくるんです」
例として西野さんがあげるのは、本作の舞台「天才万博」。えんとつ町で職を失ったモンスターが、ショー「天才万博」に出演しているという設定で物語は進む。そして実はこのショーは東京キネマ倶楽部とコラボして、実際に毎年行われている。
「この絵本がむちゃくちゃ良かったとして、誰かが真似して同じものを作ったとしてもこの天才万博というショーそのものは作れない。東京キネマ倶楽部という空間とコラボレーションしているから。実際にその空間があるということが重要なんです」
そういえば西野さんのこれまでの作品も、歴史的建造物などとコラボしてきた。実際にある景色と物語を展開していくことで作品は、長く残ると考えているのだそう。
「いかにコピーできないものと組んでいくか。歴史×個性×(あわよくば)テクノロジー。そこをかけていかないと。これは全クリエイターに言える。あなたから出てきたものだけでは、すぐにコピーされてオリジナリティがなくなってしまう。早いうちにコラボ相手をつかんでおくのが大事だと思います」
みんなに見える場所に、エンタメを投げ続ける意味
西野さんの絵本づくりは、イラスト、キャラクターデザインなど、専門スタッフが手がける分業制。今回もさまざまな職人と作業、コラボしてきた。特にモンスターたちが活躍するこの「天才万博」のシーンでは、こだわった絵がある。それが、煌びやかな舞台を読者が袖からのぞいているような一枚。
舞台に出演しているモンスターは、正面からライトを浴びているのに、なぜか背中が光っているという不思議な構図。
「最初に上げてもらった絵は、ステージに立っている人の背中が影になっていました。正面から照明が当たっているから、理屈で言うと合っているんです。ただ、袖から見た舞台って、物理的な距離は近いんですけど、あそこってなかなか立てない場所なんです。年とか平気でかかる。そうすると舞台上にいる人の背中ってめっちゃ光って見える。実際に舞台に出る芸人からすると、そう見えるんです。気持ちを入れるとそういう絵になる。そういうところを考えて、時間がかかりましたね」
モンスター、マルコは人間の女性と恋に落ちる。それでもふたりは離れてしまい、最後は遠くにいながらも、ある方法で気持ちが通じ合う。
「これは、自分の話なんです。もともと自分は、チケットを手売りしてってところからスタートして、お客さんと飲みに行って、ってことを好きでやっている人間なんです。でも、ちょっとだけ、生意気に影響力みたいなものを持ってしまって。やっかいなのが、そうなると、自分がどこにいなきゃいけないのか、ってのが決められてきてしまうんです。例えば熊本で水害があって、僕のオンラインサロンメンバーのおうちに土砂がたまってしまったことがありました。そういうとき本当なら、行って一緒に土砂をかきだしたい。以前はそういうことをやれていたんですけど、今はできなくて。自分たちもチームで動いていて、僕の動きが止まってしまうとほかに迷惑をかけてしまう。なので災害があったとき、現場に行くのはスタッフだけになってきた。これは胸が痛いのですが、その人たちのことを考えていないわけではなくて、その人たちに対して、応援していますって言おうと思ったら、あとはみんなが見える場所にエンタメをぼんって投げるしかないんです。作品を作って、それでもってがんばってください、と言うしかない。一人ひとりに言うことができなくなってしまった。っていう自分の話です」
ラブストーリーと見せて、その実、世界中のファンに向けて打ち上げられた、西野さんからの壮大な愛のメッセージ。いつまでも、その愛を伝え続けるため、作品を残すために、西野さんは今後もさまざまなコラボを仕掛け続けていく。