ひとり旅は自分をリセットさせてくれるかけがえのない時間。これまでの旅の経験から、考えたことや感じたこと、学んできたことを綴る連載『ひとり旅×松本まりか=THINK CLEARLY』。
ひとりで旅をしていると、人の優しさに敏感になります。どこへ行っても親切にされます。なかでも思い出深いのはインドです。数週間の旅を終え、私はリシケシュからデリーまで約6時間かけて寝台列車で帰るところでした。乗ってしばらくすると、向かいの席のカップルがお弁当箱を取り出しました。インドの人たちはどんなお弁当を作るんだろう? そんな興味から、またそのときお腹がペコペコだったこともあり、私は無意識にじっとお弁当箱を見つめていたようでした。視線に気づいた彼女はふいに「食べる?」と聞いてくれたのです。インドの家庭料理を食べられる機会なんて、滅多にありません。「ぜひ!」と私は満面の笑みで答えました。そうして、私は彼女の手作りのサラサラの南インドカレーとなんだか滋味深いチャパティをいただきました。
寝台列車の出会いはまだまだ続く
すると今度は、小さな女の子がこちらを気にするように通路を行ったり来たりしています。少ししてお姉さんを連れて現れ「私たちの席まで来てくれませんか?」と言われました。2人に案内されるままついていくと、そこには10人くらいの親戚家族が一堂に会していました。日本人が珍しかったらしく、「お話ししてみたい」と子供にせがまれ、メイドさんを迎えにやったのだと説明されました。そこからはもはやパーティーです! 一家のお弁当をごちそうになりながら、家族や仕事の話などおしゃべりに興じました。彼らはインド中部の都市に帰る途中で、私はデリーから東京に飛ぶ予定でした。「私たちの家に来て!」と誘われ、一瞬、足を延ばすことを考えたのですが、帰国日を遅らせることはできず、断念。帰り際には、現地でしか手に入らないようなミックススパイスやハーブなどをたくさんプレゼントしてくれました。いつか必ず遊びに行くと約束して別れ、今でもその家族とはフェイスタイムでときどき会話をしています。
自分をオープンにしておくと、思いがけない出会いを呼び寄せ、旅は一層楽しくなると思います。カップルのお弁当も、遠慮して「いいです」と断ってしまったら、きっとそれっきり。会話もしないまま列車を降りたかもしれません。インドの一家の誘いも受けずにいたら、6時間の寝台列車の旅は退屈だったかもしれません。でも、思い切って飛び込んでみたら、新たな世界を体験することができます。
私は常々、無意識レベルで優しくありたいと思っています。人に優しくと教えられますが、「優しくしなければいけないからする」というのは嫌なのです。頭ではなく、心で動きたい。それには自分がいっぱいいっぱいだったら、相手を思う余裕は生まれません。見知らぬ国で、私が何者かも知らない人から受ける優しさ。その純粋さに触れたとき、心はほぐれます。そして、旅から帰った私は、また少し、人に優しくなれるのです。
Marika’s Memories/旅の記録
松本まりか(まつもとまりか)
女優。ドラマ『ホリデイラブ』の井筒里奈役で一躍注目を集める。2020年は『竜の道 二つの顔の復讐者』『妖怪シェアハウス』『先生を消す方程式。』『教場Ⅱ』など8本のドラマに出演。放映中のオトナの土ドラ『最高のオバハン 中島ハルコ』ではコメディーに挑戦し話題に。5月14日(金)初主演となる連続ドラマ『向こうの果て』(WOWOW)がスタート。
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