日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第40回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その40『どうせ』
「ボーイフレンド候補紹介してあげるよ。どうせヒマでしょ?」・・・学生時代にクラスメイトからこう言われたことがある。彼女のバイト先にいい人がいるからと誘われて、デートをした。カフェで喋って映画を観るといういかにもなデートだった。優しそうな年上の青年は悪い人ではないのだなと感じたが、クラスメイトに言われた「どうせヒマでしょ?」というフレーズがじわじわとショックに結びつき、彼とのデートは後半あたりから集中できなくなった。大変申しわけない話だが、ボーイフレンドができるかもという期待より、どうせヒマでしょ?、の衝撃の方が心にズシンと響いていたのだった。結局彼とはそれっきり。クラスメイトもそれ以上は踏み込んでこなかった。
どうせ。言われたらなかなかショックだし、言い放ったとしてもいい感じには捉えられないという恐怖のフレーズだと私は考える。「どうせズブズブの関係で忖度してるんでしょ」「どうせ利権が絡んでるんでしょ」「どうせ何やっても無駄でしょ」「どうせ意見なんかきいてくれないでしょ」・・・最近よく耳にするような気がするのはマツリゴトを担う方々のスキャンダルの影響か、それとも感染症拡大の影響か。はたまた皆があれこれあって「もうやだ」状態になっているのか・・・どれもあてはまる。そんなときに「どうせ」が脳内を浸食する。思考停止につながって体にも悪影響があるので浸食には負けないでいただきたい。
ではどうすれば浸食を防げるか。どうせ、の思考が始まったら、「だけど・・・かも」と覆すフレーズを妄想する。そしてまた「でもどうせ」とそれを覆す。更に「だけど・・・かも」と覆す・・・を気の済むまでやる。 するとどうだろう。何だがバカバカしくなってきて、とりあえずは今できることをやるか、とちょっとだけ前に進む気持ちになるのだ。解決できないと脳が錯覚すると、動いた方がマシと感じるようになる、妥協にも似た「どうせ」浸食防止策を使っていただきたい。思考は転がし続ければ、いつかは自分なりの答えが見つかる。 どうせに浸食されている他者にも「だけど&どうせ」の投げかけをしてあげたら、お互いにバカバカしくなって笑えてくるかもしれない。
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