女芸人 紺野ぶるまさんによる女観察エッセイ「奥歯に女が詰まってる」。GINGER世代のぶるまさんが、独自の視点で、世の女たちの生き様を観察します。
第31回 接客がうまい女
接客のうまい店員さんは使う言葉も絶妙で勉強になる。
例えば、ルミネあたりで10秒に1回使われている「あげる」の三文字。
丁寧に接客してもらっているなあ、という印象を受け、購買意欲がわくのは私だけではないはず。
「目尻に赤を持ってきてあげると引き締まると思います」
「気になるようでしたら、静電気防止のスプレーかけてあげてください」
よくよく考えると「一体誰にあげるんだろう?」と対象がわからなくなる瞬間もある。
あげるって洋服に? 自分に?
「きつかったらサイズあげてあげてもいいかもしれないです」
ここまでまでくると「もう言いたいだけじゃん」と突っ込みたくなるが、やはりここまで接客してもらったのなら買わないわけにはいかないと思わすものが「あげる」にはある。
ところで、最近、試着後に店員さんが言ってくる「全然大丈夫ですよ」に俄然引っかかるようになってしまった。以前は気にならなかったのに、私自身が年齢を重ね、懸念している箇所が増えたからだと思う。
試着室を出た瞬間の
「あ〜、全然大丈夫ですよ」
「ちょっとキツそうに見えますよね?」と聞いた時の、
「でも全然大丈夫ですよ」
「34才です」と年齢を明かせば、
「え?! 見えない。けど全然大丈夫ですよ」
「全然大丈夫」の前の「(気になるところはいっぱいあるけど)」が聞こえてきてしまうのだ。きっとあちらも気を遣ってくれているのだろうが、だったらひと思いに「気になります! 違う服にしましょう」と言われた方が信頼できる。
そんな地雷の擬人化のような私にやさしく染みわたるのが「(体のラインを)ひろう」と言う表現。
「これくらいならひろってもいいかなと思います」は、
「全然大丈夫」と言ってるのと内容はほぼ一緒なのに、聞こえ方がまるで違う。
あくまで、「あなたが太っているのではない、洋服が良かれと思って勝手に沿わせていただいている」というニュアンスに変わるのだ。
「ペチコート入れてあげれば、ほぼひろわないです」
と合わせ技を見せられると、もう買わずにはいられなくなる。
そのあと来たお客さんが
「これってひろわないですか?」
と言うからここの常連なんだなとすぐにわかった。
その軽快さが、まさに居酒屋の「大将いつものあります?」だったから。
きっと服だけでなく、このお店の細かい気遣いが気に入っているのだと思う。
私も通いつめていつか「やってる?」の要領で「ひろってる?」と言って暖簾をくぐりたい。
暖簾なんてないけど。
最後に
「買い物」とかけまして
「店員さん」と解きます
その心は
「どちらもそこに大事な円(縁)がある」でしょう
今日も女たちに幸せが訪れますように。
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