E-girlsメンバーの山口乃々華さんが、瑞々しい感性で綴る連載エッセイ「ののペディア」。今、心に留まっているキーワードを、50音順にひもといていきます。
第42回「れ」:連絡
スマートフォンの画面がピカッと光って、新着メッセージを表示した。友人からだった。彼女は約1年前に、少し遠くに引っ越した。
「とはいえ、国内だからすぐに会いにいけるよね。海が綺麗だろうなぁ、いいなぁ!」
なんて言っていたけれど、こんなご時世になってしまって、遊びに行くことも、友人がこちらに戻って来ることもできていなかった。
そんな調子だったから、
「仕事に合わせて、東京に数日戻るよ! 予定が合うならご飯行こう」
との連絡に、わたしは思わず顔をほころばせた。
ゆっくりと話すことができるなら、外でも家でもどこでもよかったのだけれど、たまたま食べてみたいものを購入していたので、せっかくなら一緒に食べて、感想を言い合いたいな、と思い、自宅に誘った。彼女は「いいね! 楽しそう!」と返事をくれた。
当日「もうすぐ着くけど、コンビニで何か買ってく?」なんていう電話がきた。本当にすぐ近くにいることを感じ、うれしくなった。わたしは、家に足りない飲み物だけお願いして、バタバタと部屋の片付けを進めた。
ピンポーン!とインターホンが鳴った。
扉の前に立っていた彼女は、相変わらず元気で明るい笑顔で、ただほんの少し落ち着いた雰囲気をまとって、大人っぽくなったように感じられた。
SNSで普段のお互いの様子は知っていたはずだけれど、第一声はやっぱり「久しぶりー!」。
こうして向かい合っていると、昨日も一緒にいたような気さえする。それほど馴染みのある空気と存在感。それなのに話すことが山ほどある感覚が、おかしくて、楽しくて、盛り上がった。
あっという間にいつもの空気になれたことに、わたし自身がすごく安心していたし、その居心地の良さになんだか驚いてしまった。
会えない時間が長くても、過去に過ごしたそのときの心の距離が近くにあったことが、何より大切だったことを知った。
彼女と話していると、とても楽だ。
わたし、普段誰かと話すときは無意識に、たくさんのことを気にしながら話していたのかもしれない。いつだって相手の顔色を伺って、疲れていたのかもしれない。
そんなことに気がついた。
楽しい時間を過ごしたあと、
「またすぐ会おう! 今度はわたしがそっちに行くね!」
なんて言って、彼女を見送った。
・・・
連絡の手段としてLINEが当たり前になってから、メールでの連絡はほぼしなくなった。昔は、着メロを設定したり、メールを一通一通遡ったりすることが、密かに楽しかった。好きな人にメールするときや、誰かに気まずいことを言わなきゃいけないときは、送信ボタンにありったけの思いを込めて押したりして、今よりも一通に重みがあった気がする。携帯電話そのものが重かったこともきっとあったし、いちいちボタンを押すという行為は、スマートフォンのタッチと大きく違う。
LINEはメールよりも気楽だからこそ、全然会えていないあの子にもいつでも連絡できる。手軽なことの良さはたくさんある。たとえ遠く離れていても、繋がれる手段があることで、疎遠にならずに関係が続く。
出会うすべての人と、心を通わせられるわけではないから、一度心を通わせた相手とは、遠く離れたからといって関係が終わってしまうのは寂しい。
その人のタイプにもよるけれど、大切な人とは、会えない分連絡を取り合って、こんなことがあったよ、悩んだよ、喜んだよ、悲しかったよ、怒ったよ、とわかち合いたい。
連絡はあくまで手段に過ぎなくて、相手の表情やテンション、本心など、直接顔を合わせなけばわからないこともたくさんあるけれど、そうやって繋がっていることは、大きな支えにもなったりする。
面と向かって深くつながることとはまた違った角度から、人と人との関係性を豊かにしてくれる。連絡って素敵。
【ののペディア/連絡】
心の通じ合いを、支えてくれるもの。