日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第32回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その32『タラレバ』
タラレバは自分が弱く見えてしまうので人前で使わない方がいいわよ。・・・これは学生時代お世話になっていた講師の女性から授かった言葉だ。美しく優しいけどどこかピリッとした物言いもできる彼女は大人の女性として憧れていた。
そんなわけで仕事の際や日常会話でもジョークとして言う以外はタラレバという仮定の話はできるだけ控えてきた。今「仮定の話はしたくない」と言うと、どこかの政治家じゃないんだからと揶揄されそうだが。
しかし、世の中は段々と仮定をしていかないと命取りになるようなムードにもなってきた。感染力の未知数な病にふりまわされて先の見えない仕事状況や日常生活・・・「先のことはあまり考えていない。今を生きるだけ」というひたむきでおおらかな気持ちも、「呑気すぎない?」と呆れられる始末。価値観までも揺らいでしまいそうだ。しかし、タラレバに気持ちを乱されたくはない。「もしあのとき、もっと感染症対策を進めていれば」とか「私がもっと転職先を見極めていたら今頃・・・」とか考えてしまうのは体によくない。
そんなときに「予感がする」と先手を打つような物言いはいかがだろうか。予め、感じる・・・そうすれば心をタラレバに支配されることもなくなるだろう。「人混みに巻き込まれそうな予感がするから今日は家にいます」「温度差が激しくて体調管理が困難な予感がします。養生しますね」と言えば自分で決めたことだと、物事に言い訳せずに向き合える。
私も時々「嫌な予感がする」と勤務前に頭痛薬を飲んだりする。嫌な予感というのは仕事中に頭が痛くなり、集中できない自分がその場にいることだ。自分で感じた「予め」を頭痛薬を飲むことで予防したと脳にインプットしてのぞむと、不思議と嫌な予感は杞憂に変わる。もしくは、的中してもすぐに薬が効いて安心する。自分を安心させられるのは自分だけだし、納得させるのも結局は自分。予感を使って、自己暗示をしながら不安を散らしていこう。何なら「恋の予感」を覚えてピンクのマスクでルンルンしたっていい。