日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第9回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その9『いいんですか』
「いいんですか?」、これを言うだけで相手が「自分のためにしてくれたこと」が何倍もありがたく伝わる。ご飯をおごってくれた、高価なものをもらった、大きな助けとなってくれた・・・、この言葉を使う状況は多い。丁寧に言えば「よろしいんですか?」。応用編として「えっ、本当に? よろしいんですか?」。亜種(トリッキーバージョンといってもいい)として「そんなことしていただいて、私後から誰かに怒られませんか?」「いいの? ダメって後から言ったら泣くよ?」などなど、多少の大げさ感はあるが、相手はその大げさな雰囲気すらも「自分はとても良いことをした」と感じてくれるだろう。結果、優越感として受け止めること間違いない。こういう文章を書いていると、「いいのよ、もー、オーバーなんだから」と呆れながらもえびす顔で聞いていた昔の上司のことをふと思い出す。確かに「効く」言葉なのだ。わざとらしい、と切り捨てるのはあまりにももったいない。
ここ最近、忖度という言葉をよく耳にする。相手のことをおもんばかる、気を使う、という行為には賛否両論あるだろう。報道から伝わってくるのは「忖度はいいものではない」というムードがほとんどだと感じる。確かに、力あるものの状況や心理を想像して「いい方向」に「こうあるべき、ということをねじ曲げて」でも、「相手をたてた」というニュースに好印象を持つものは極めて少ないことも分かる。しかし、我々が「日常生活内」で「ささやかに相手を気持ち良よくさせる」行為ならば、プチ忖度ともいえる「いいんですか?」系統の言葉たちを使っても批判は受けないと考える。お金や利権がからむから良くないものだと捉えられるのだから。
言った側にだって旨味はある。身銭をきることもなく、相手から善意をもらっておきながらも相手がちょっとした優越感に浸れるのだから。ジンジャー読者は「いいんですか?」を言う側でもあり言われる側でもあるだろう。からくりを知り、願わくばおおらかに使い&使われてほしいものだ。