小説から漫画までジャンルを問わず、本好きとして知られる女優の多部未華子さん。読者からの本選びの相談や質問に応えて、オススメ本をご紹介します。
vol.09 懐かしい気持ちになれるような青春小説を読みたいです!
《読者からのリクエスト》
自宅から駅まで歩く通勤途中で、夏休みで真っ黒に日焼けした小学生たちとすれ違いました。その姿を見て、なぜかやたらとノスタルジックな気持ちに。青春小説というか、子供時代を描いた物語を読みたいです。
《多部さんのオススメは・・・》
同じ日本ではないみたいで、
とても新鮮、かつ不思議な感覚
「懐かしい青春小説」ということでしたが、今回は私も意表を突かれ、フジコ・ヘミングさんの生き方・考え方のかっこよさにすごく惹かれた一冊を選びました。青春小説というと、私の中のイメージは、心が若返って(この表現がすでに年齢を感じる。笑)、読み進めるにつれてきらきら輝いて、心がきゅーんとなるような本なのですが、この『フジコ・ヘミング 14歳の夏休み絵日記』は、全く別の視点から見る青春の本でした。
14歳の時に描いた可愛い絵日記の他にも、フジコ・ヘミングさんのインタビューが掲載されており、その言葉一つひとつに重みがあり、1ページずつ丁寧に読み進めました。
私はフジコ・ヘミングさんのことを有名なピアニストということくらいしか知りませんでした。しかしこの本で、戦時中から戦後までの苦しみや葛藤、ハーフとして生まれたことによる周りからの冷たい視線、ピアノに対する思い、思春期真っ只中の14歳の女の子の心の揺れや気持ちが、素敵な画とともにたくさん綴られており、フジコ・ヘミングさんに対して、もっと知りたいと思いました。
絵日記に描かれている日々には特に大きな事柄はなく、淡々と家族やご近所さんや友人、学校の先生、ピアノの恩師とのことについてです。
8月24日の絵日記は、配給されたチョコレートを食べて、ピアノの練習をしないと先生に怒られる!! 雷が鳴って弟と怖がって外に出るのもこわごわ!なんて、本当に取り留めのない言葉が連なっているだけなのですが、私は、この日の絵日記が特に印象的でした。
そもそも、国から配給された食べ物を食べて生活するこの当時の日本の在り方が私にとっては想像もつかないようなことです。砂糖がわりに使っていたサッカリンという人工甘味料の存在や、今はあまり馴染みがない日本語の使われ方など、今、私たちが住んでいる日本と同じ日本ではないみたいで、とても新鮮かつ不思議な感覚でした。
私は、この当時の生活に触れることはもうできないですし、これから先も経験することがないかもしれませんが、フジコ・ヘミングさんの言葉を通して、知るきっかけをもらえたことはとても貴重なことだったなぁと深く思います。
この本に出てくるどの文章にも非常に興味を持ちました。その時代にはその時代を生きた人間にしか表現できないことが必ずあります。
フジコ・ヘミングさんの言葉を通して、当時の日本を心で想ってみてはいかがでしょうか?
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