日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第8回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その8『微妙』
例えばアップルパイを作ったとする。食べた者から「このアップルパイは絶妙な味だ」と言われたらうれしい。しかし、「このアップルパイは微妙な味だ」と言われたら「え・・・美味しくなかった?」と聞きたくなる。
絶妙と微妙。実は本来の意味は両方ともポジティブなものだというのをご存知だろうか。絶妙は「素晴らしい」と言い換えられるし、微妙は「趣深い味わいがある」と言える。絶妙な味のアップルパイは食べた者の好みにぴったり合っている良さがあり、微妙な味のアップルパイは食べた者の感性をくすぐるような演出がしてある良さがあると解釈してもいい。
では、なぜ微妙のイメージがネガティブなものになってしまったのか。
場合によっては「ビミョー」などとカタカナ&妙な長音表記が加わり、ますます軽く使用されているケースもある。恐らくどこかのタイミング(ここ15~20年くらい)で微妙の持つ「何とも言えない」という部分が強く解釈される流れが出てきたのだろう。きっぱり否定はしたくない。しかしこれが正解だ、ぴったりだとは言いにくいし・・・という遠慮とソンタクの気持ちが微妙の意味を微妙にネガティブにしていったと思われる。
しかし、「微妙」や「ビミョー」と言われて、「ああ気を使われているんだな」と気づいてしまうことが却って悲しくなる場合もある。
また、「こないだのデート上手くいった?」と聞いて「うーん。微妙かなあ」と答えられてしまうと、こちらも「どんな状況だったんだ??」と疑問とそれ以上踏み込めないムードが発生する。微妙は皆のなかで微妙に解釈が違うのだ。微妙、で「何とも言えない」雰囲気を出したなら、「だってさ、車の運転がちょっと乱暴だったの」「どこでもいいって言って、全然決めてくれないんだもん」などなどあとに続く言葉で微妙の解説をしてほしい。言葉の意味は変わる。今昔で意味が逆転することもある。だからこそ、他の会話でその言葉の意味を共有し、会話を深めたほうが絶妙な交流も出来るだろう。