“わたしの心地よさ”を基準に行動することが、ウェルビーイングに生きるカギになる。そのために、もっと自分自身を知る=自分のトリセツを手に入れませんか? 保健学博士の島田恭子さんがナビゲート。【連載「自分学 わたしのトリセツ」vol.44】
元気な人、意外と少ない!?

「週末ってもう、使いものにならないんです」
そう話してくれたのは、新卒2年目の女性。同期は仕事のあと飲みに行ったりジムに行ったり。でも月曜はけろっとしている。彼女は会社を出た時点で電池切れ。帰って倒れこむように寝る、お風呂をあきらめて。土日は回復にぜんぶ使って、日曜の夜に「休みは何もしなかった」と落ち込む。毎週これの繰り返し。
健康診断は、異常なし。「だから、よけいに言えないんです…。怠けてるって思われる。みんな本当に元気で羨ましい、私はムリ…」
私のまわりの疲れる女たち。最近多い気がします。
「みんな」って誰のこと!?
衝撃的なことに、なんと日本人の78.5%が、疲れているそうです。推計で7,172万人、全国10万人に聞いた調査の結果。20代に限るとなんとなんと…、元気な人はたったの14.4%しかいませんでした。…7人に1人とは。
彼女が言ってた「みんな元気」のみんなは、実はクラスにたった4、5人しかいないくらい。残りはたぶんぐったり、机の下で足がだるかったはず…。
いやぁ、元気なほうが、少数派かぁ。職場で元気そうに見えるあの同僚も先輩も、帰ったらそのままベッドに倒れ込んでライフゼロ、なのかもしれません。…実際冒頭の彼女はこのことを、2年ちかく、誰にも言えずにいたそうですから。
わたしたちはずっと、自分の消耗に名前をつけてきた

2022年に「day2」という言葉が流行りました。2日間お風呂に入っていない状態のことだそうです。 2024年には「風呂キャンセル界隈」。そのあとも、ごはんキャンセル界隈、限界OL、HP低い、MP切れ、ソーシャルバッテリー、などなど。わたしたちはこの数年、消耗にひたすら名前をつけ続けてきたんですね。
そして最近、もっと古い言葉が戻ってきました。
そう、「虚弱」です。
わたしの感覚だと、少し昔の言葉という感じがします。虚弱体質という言い方で、ちょっとシニアな親戚のおばさんたちの世間話によく出てきた気がする。
それをいま、20、30代の方々が、自分のことを指して使っている。 エッセイになり本屋さんで平積みになり、そこに「言語化してくれてありがとう」という声がたくさんついているそうです。
心も気力もひっくるめて虚弱
2014年、日本老年医学会が「これからはフレイルという言葉を使いましょう」という宣言を出しました。英語の〈frailty〉の訳語として使われてきた「虚弱」はやめて、横文字で"フレイル"。
理由は2つ。
1つは、虚弱だと、歳をとって二度と戻れないほど衰えた状態、という印象だから。フレイルは、手を入れれば元気に戻れるという意味が含まれているのに、と。
もう1つが、虚弱では、からだ・こころ・人づきあいというフレイルの多面性を表現しきれないからと。つまり医学会は、「虚弱は衰えて戻らない、体の話に聞こえすぎる」と気にしていたんですね。
いやいやそんなことはないでしょう。いまそれを、若い人たちが定義し直してます。"気力がわかない"とか、"人といると消耗する"とか、ちゃんと心やキモチを入れて、虚弱という言葉を使っています。
なぜ、名前がつくとラクになるのか

じつはもうひとつ、「うつ病ではないけれど、元気でもない」という状態には、ラングイッシング(Languishing)という名前もあります。
米社会学者キーズ教授が2002年に提唱した言葉で、日本語にすると「停滞」とか「しなびている」に近い。水をやり忘れた鉢植えのあの感じ。枯れてはいない。でも、ぴんとしていない状態です。
キーズ教授の考え方で素晴らしいのは、心の健康を、病気か健康かの二択にしなかったところ。いきいきしている状態の反対側に停滞を置いて、そのあいだをひとつの長ーい坂道として描きました。
2021年、この言葉を紹介したニューヨーク・タイムズの記事がバズりました。 世界中が「なんとなくダルい」に名前を探していた、ということですね。
東洋医学には古来からこの感覚に似ている「未病」という言葉があります。「虚証」という考え方もあります。エネルギーが足りていない状態のことで、それらを補うという発想で、長いあいだ扱われてきました。健康と病気のあいだには、2000年前から名前があったんですね。
責めるのを減らしたら、少し容量が増える

ただ、この疲れの正体に名前がついたとて、虚弱とわかったとて、気力も体力も増えません。来週の金曜も、やっぱり使いものにならない。
でも。
「あー、この疲れって、名前があるんだ。そしてみんな元気に見えるけど、実はみんな疲れてるんだ。私だけじゃないんだ」とわかると、自分を責める気持ちが減りますよね。そして、自分を責めるのをやめる練習をすると、落ち込みや不安が実際に下がる、という研究がいくつもあります。
自分を責めるという行為は、けっこうな電力を食います。夜、おふとんの中で「なんで私ってこうなんだろう」とぐるぐる考える時間…。
だから責めるのをやめた分だけ、使えるキャパが戻ってくる。時間や容量が戻ってくる。わたしはそこに、希望を見出してます。
だから、「今日は虚弱デー」でも「HP30%」でも、毎日停滞が続いても…。同じ週、日本中で7,000万人が、だいたい同じくらい疲れているんだから。私だけじゃない、と思って、責めるのを減らして、とりあえずキャパを確保。日曜の夜に、また落ち込んでいる人がいたら。「私だけじゃないらしいよ」って、思い出してもらえたらうれしいです。
休んでリカバリーするのも大切なお仕事。——というわけで、今日はお風呂、キャンセルでいいと思います。
次回は、虚弱第2弾。「検査は異常なし」と言われ続けてきた、体の話をします。
参考文献
・一般社団法人日本リカバリー協会(2025)『日本の疲労状況2025』全国10万人調査
・Ferrari, M., Hunt, C., Harrysunker, A., Abbott, M. J., Beath, A. P., & Einstein, D. A. (2019). Self-compassion interventions and psychosocial outcomes: A meta-analysis of RCTs. Mindfulness, 10, 1455–1473. https://doi.org/10.1007/s12671-019-01134-6
・Keyes, C. L. M. (2002). The mental health continuum: From languishing to flourishing in life. Journal of Health and Social Behavior, 43(2), 207–222.
・Grant, A. (2021, April 19). There's a name for the blah you're feeling: It's called languishing. The New York Times.
・日本老年医学会(2014)「フレイルに関するステートメント」平成26年5月 https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20140513_01_01.pdf
島田恭子(しまだきょうこ)
予防医学者・保健学博士。医学や心理学の知見を、女性のウェルビーイングに役立てたいと活動中。(社)ココロバランス研究所代表。著書『心が疲れたらセルフケア』が好評発売中。ストレスなく心の疲れを取り、元気を取り戻すための50の方法を紹介。
https://kokorobalance.jp/mn/kyoko

