“わたしの心地よさ”を基準に行動することが、ウェルビーイングに生きるカギになる。そのために、もっと自分自身を知る=自分のトリセツを手に入れませんか? 保健学博士の島田恭子さんがナビゲート。【連載「自分学 わたしのトリセツ」vol.36】
手帳はわたしたちの”過去・今・未来”をつなぐ
新しい年のはじまりに、新しい手帳をおろす。
ページをぱらぱらめくりながら、「今年こそ、ちゃんと続けたい…」と決意する。
——今回のお題。
「手帳は”究極の自分のトリセツノート”になるよ」っていうお話です。

最近手帳のプロの方に伺い、胸に刺さった言葉があります。
「”過去を振り返り、今を記録し、未来をデザインする”。これぜんぶ同時にできるのは手帳だけ」。
なるほど…!
スマホのカレンダーアプリは”予定”は教えてくれるけれど、
ーその日、自分がどんな気分で、
ーどんな迷いがあってそう決めて、
ーあのときの自分に、今なら何て声をかけるのか、
までは教えてくれません。
手帳には、いろんな情報が詰まってる。
スケジュールから、日記から、筆圧や字体から、その日の息遣いまでわかったり。過去の履歴書にも、今の健康チェック表にも、未来の自分のデザイン画にもなる。ぜーんぶ一冊で引き受けてくれる、なんともステキなツール。
だから、予定だけでページを埋めるのはもったいない。せっかくなら、カコもイマもミライも、丸ごと預けてしまいましょう。
スマホは速く、手帳は深く

よく、「スマホと手書き、どっちがいい?」と話題になります。
答えはシンプルです。
スマホやタブレットは、速く処理するための道具。
紙とペン(手書き)は、考えを深く掘るための道具。
たとえば会議中。キーボードでカタカタ打てば、話された言葉をぜんぶ写せます。
でも私たちの脳は、”聞く” → ”そのまま写す”ことに忙しくて、「これって結局どういう意味?」とか「自分はどうしたい?」まで、なかなかたどりついてくれません。
一方、手書きのときのわたしたちの脳は、
- 何を書くかを考える
- どこまで削るかを選ぶ
- 手を動かして形にする
を同時にこなします。
脳科学の研究では、こういう「考える+選ぶ+動かす」作業は、前頭前野(考える・決める)、運動野(動かす)、感覚野(感じる)が、いっせいに働いている状態、だと考えられています。
つまり手書きの脳は、ちょっとした全身運動をしているようなもの。
スマホに打ち込むと、なんだかわかった気には、なりやすい。でも手書きだと、全身運動で書き込むから、腹の底まで落ちる感じ。
この”腹落ち”が起こると、
- 迷いが減り、
- 決断が早くなり、
- 行動に移しやすくなる。
なんだ、手帳は単なるスケジュール管理の道具じゃなかった。わたしたちの考えやキモチをちゃんと受けとめ、腹落ちさせるためのすごい道具だったんですね。
手書きの「ちょっとめんどくさい」が、ココロの筋トレに

とはいえ正直、スマホより手帳のほうが、めんどくさい! 打つほうが速いし、コピペも検索もできる。それでもあえて、手帳を使う価値ってなんでしょう?
実はこの”めんどくささ”こそが肝なんです。
たとえば手帳に書き込むとき、
- 文字を一つひとつ形にする負担
- どこに書くか、レイアウトを決める負担
- 消したり書き直したりしながら、自分と向き合う負担
が生じます。
心理学では、こうした”ちょっとだけめんどうなこと”を繰り返すことで、
- 注意を続ける力
- 物事を順序だてて考える力
- 「今、自分はどう感じている?」と気づく力
が鍛えられることがわかっています。
ジムでダンベルを持つように、手帳にペンを走らせることは、”ココロの筋トレ”。
- ただ眺めていた不安が、”言葉”になって整っていく。
- ぼんやりしたモヤモヤが、”やることリスト”に変わっていく。
- 「どうしよう…」だけで終わっていた悩みが、「じゃあ、どうする?」に進んでいく。
この小さな負担たちが、わたしたちの”決める力”や”動き出す力”を、じわじわと育ててくれますよ。
今年の自分に「手帳という味方」を

スマホは、あなたの生活を”速く”してくれます。
でも手帳は、あなたの人生を”深く”してくれるでしょう。
空白のページも、ため息で埋まったページも、号泣した夜のページも。ぜんぶまとめて”あなたの人生のログ”。
今年は、”過去を振り返り、今を記録し、未来をデザインする”一冊を、 一緒に育ててみませんか。
次回は、手帳でできる”書く瞑想:ジャーナリング”の具体的なやり方を、一緒に考えていきましょう。
出典
●Mueller, P. A., & Oppenheimer, D. M. (2014). The pen is mightier than the keyboard: Advantages of longhand over laptop note taking. Psychological Science, 25(6), 1159–1168.
●Umejima, K., Ibaraki, T., Yamazaki, T., & Sakai, K. (2021). Paper notebooks vs. mobile devices: Brain activation differences during memory retrieval. Frontiers in Behavioral Neuroscience, 15, 634158.
島田恭子(しまだきょうこ)
予防医学者・保健学博士。医学や心理学の知見を、女性のウェルビーイングに役立てたいと活動中。(社)ココロバランス研究所代表。著書『心が疲れたらセルフケア』が好評発売中。ストレスなく心の疲れを取り、元気を取り戻すための50の方法を紹介。
https://customer-harassment.org/kyokoshimada/

