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MYSELFウェルネス

2025.06.23

あなたらしい幸せとは?日本人的ウェルビーイングのかたちを知る

“わたしの心地よさ”を基準に行動することが、ウェルビーイングに生きるカギになる。そのために、もっと自分自身を知る=自分のトリセツを手に入れませんか? 保健学博士の島田恭子さんがナビゲート。【連載「自分学 わたしのトリセツ」vol.29】

あなたにとっての「ウェルビーイング」とは?

最近いろんなところで耳にするけど、でもちょっとわかりづらい「ウェルビーイング」という言葉。物質的な豊かさだけでは心の充足感が得られにくい現代社会において、この「良い感じ、満たされた状態」への関心が高まっているのは、自然な流れといえるでしょう。

これまでのウェルビーイング研究は、主に西洋で進められてきました。たとえばポジティブ心理学の提唱者であるセリグマン博士のPERMAモデル(ポジティブ感情、エンゲージメント、人間関係、意味、達成)が有名です。この連載でも最初のほうで「心理的ウェルビーイング」についてご紹介しました。でも私たち日本人の文化や日々の感覚と、なんとなく違う感じがしませんか? 西洋の概念が個人の達成とか自己主張を重視するのに対し、日本の文化では集団の中での調和、とか人とのつながり、が重んじられる傾向、ありますよね。私もずっとウェルビーイングを語るたびに、微妙なギャップを感じていました。

そこで、私たち日本人にとってもっとしっくりくる「ウェルビーイング」の形はないものか?と研究を進めました。今ある西洋のウェルビーイングに、日本ならではの要素を取り入れた新しいカタチ。私たち一人ひとりが日本的な要素の入った「自分らしい幸せ」を見つけるための羅針盤となることを願って。

西洋と東洋、幸せの捉え方の違いを紐解く

幸せの感じ方・とらえ方は、文化によって違いますよね。西洋、特にアメリカでは、「個人の成功」や「自己実現」がウェルビーイングと強く結びついているようです。自分の目標を達成し、自己肯定感を高めることが、幸福の重要なポイント。となると「幸せは、努力と計画によって自ら手に入れるもの」というイメージですね。個人の独立性とかユニークさが尊重され、自らの力で道を切り拓くことが美徳とされる文化的背景が、この幸福観を形作ってきたように思います。

一方、私たち日本人は? 「社会との調和」や「人とのつながり」のなかで幸せを感じることが多いことを、これまでの研究が示しています。たとえば「自分とまわりの人が、幸せだと信じている(相互協調的幸福)」とか、集団の中で自分の役割を果たしていること、社会のルールに適応していることが幸福感につながる、という考え方は、日本の集団主義的な文化が幸福のカタチに影響していますよね。西洋が幸せを「つかむもの」としているのに対し、日本では「分かち合うもの」「関係性のなかで育むもの」ととらえている。つまり、幸せは自ら作り出すというよりも、日々の暮らしのなかに「気づく」もの、という感覚に近いのかもしれません。

「未病」に象徴される、日本ならではの心身のとらえ方

ところで日本には、「未病(みびょう)」という考えがあります。これは、病気ではないけど元気な状態でもない、なんとなく活力がない、すっきりしない感じです。西洋医学が「病気か健康か」の二択なのに対し、日本ではその間のグラデーションを意識し、不調を未然に防ぐための予防やセルフケアを大事にしてきました。私はこの「未病」の考え方は、単に病気を治すだけでなく、日々の生活で心と体のバランスを整え、なんとなくの不調を未然に防ぐという、日本文化に根ざしたウェルビーイングへのアプローチにつながっている、と考えています。

これはちょっと飛躍するかもしれませんが、西洋のいわゆる「問題解決型」とは異なる「予防・維持型」の幸福観とも言え、心と体の微妙な状態に対する繊細な意識が、日ごろのセルフケアや心の整え方を大事にする姿勢につながっていると思っています(そして最近西洋でも、そんな日本的なアプローチが受け入れられているような気がします)。

日本型ウェルビーイング6つの鍵

そんな西洋的な「個人の達成」とか「ポジティブ感情の最大化」だけでない、私たちが日々感じる「人とのつながりから生まれる温かさ」、「不完全さを受け入れる心のゆとり」みたいな感情は、果たして本当に日本人のウェルビーイングを説明しているのか? 私たちはそのギモンを解消すべく、調査を行い、日本型ウェルビーイングを形作る6つの因子を特定しました。まだまだスタート地点ですが、確かに西洋のウェルビーイング概念に加え、日本の文化的価値観が反映されているなと感じています。

自分学

1. 感謝と温かい心でつながる幸せ

この因子は、他者への思いやりや感謝の気持ち、人との温かい絆が、私たちのウェルビーイングとつながっていることを示しています。「おもてなし」という言葉、ありますよね。相手を思いやる心、たとえば、電車が時間どおりで、公共トイレがきれいで細やかな気遣いがあったり、雨の日は商品が濡れないようにビニールカバーをかけてくれたり…。日常生活の至る所に「まわりへの思いやり」が息づいていますよね。こんな他者への配慮や、人との調和を重んじる姿勢は、私たちに温かさをもたらします。幸せが個人的な達成だけでなく、他者との関係性の中で育まれるという、日本ならではの幸福観があらわれていますね。

2. 好奇心と挑戦:新しい自分に出会う喜び

新しいことへの興味、成長し続けることへの意欲も、ウェルビーイングを構成する要素として出てきました。新しい挑戦を通じて、まだ見ぬ自分を発見する喜びは、人生に活力を与え、自己肯定感を育みます。これは西洋のウェルビーイング概念にも共通しますが、特に日本では、完璧を目指すよりも、「より良い自分」を追求するプロセスとして捉えられるように思います。日々の小さな学びや成長を大切にする姿勢ですね。

3. 不安の克服:心のゆとりと強さを育む

不安や心配との向き合い方、そしてそれを乗り越えるこころの持ちようも大切ですよね。不安を抱えやすい日本人、いかにその感情と付き合い、手放していくかがウェルビーイングの鍵となりそうです。この連載でも感情知能について取り上げました。ここで役立つのが「メタ認知」の視点。メタ認知とは自分の状態や気持ちを客観的に一歩引いて見つめる能力のこと。「なぜ今、私は不安を感じているのだろう?」「この心配は、本当に現実になる?」たとえばもう一人の自分が冷静に問いかけることで、感情に流されず、冷静に対処法を考えることができるようになるでしょう。また西洋が怒りや攻撃性といった感情を外部に発散しがちなのに対し、日本人はガマンや忍耐が美徳。そのどちらも極端になると歪みが生じます。適度なバランスで日本人ならではの心の整え方、不安という感情の扱い方を見つけていくことがウェルビーイングとつながっています。

4. バランスと調和:完璧でなくても満たされる

ゆとりを持ち、完璧を求めすぎず、ある程度満足すること、「ちょうどいいあんばい」。これは、日本の伝統的な美意識である「わび・さび」とも通じるかもしれません。「わび」はシンプルなもののなかに趣を見出す心、「さび」は時間の経過によって生まれる美しさを指し、絢爛さや左右対称を美とする西洋とは異なり、質素さ、閑寂さ、非対称、そして「不完全さ」のなかに美を見出します。
また、「足るを知る」という思想もこの因子に入りそうです。ともすればあるものではなく「無いものにばかり」目を向けがちな私たちですが、本来仏教では「身分相応に満足することを知り、足りていることに感謝する」思想があるんですねー。無限の欲に囚われず、今あるものに目を向け、感謝することで、物質的な豊かさとは異なる心の充足感が得られる、という考え方です。何事も極端にならず、中庸(ちゅうよう)のバランス感覚を持つことが、心の安定と調和をもたらす。この「ちょうどよさ」こそが、私たち日本人の感じる幸せの根源にあるのかもしれません。

5. 人生に満足する:今ある幸せを見つめる力

人生の満足度は、現在の生活や人生全体に対する肯定的な評価と充足感です。もちろん西洋のウェルビーイング概念にもありますが日本においては、単なるポジティブ感情だけではなく、日々のささやかな出来事に幸せを見出す力といった感じです。

6. 平静と受容:ありのままを受け入れる穏やかさ

この因子は、不愉快なことがあってもある程度感情をコントロールでき、不完全なものや欠けているものをそのまま受け入れることができる、穏やかな心の状態を指します。日本の文化には、古くから「落ち着き」を重んじる精神があります。例えば、茶の湯や着付けの立ち居振る舞いは、一つ一つの動作をゆっくりと丁寧に行うことで、自然と心が落ち着き、余裕が生まれるとされています。また禅にルーツを持つ「マインドフルネス」も、この平静と受容を育む強力なツールです。

あなたらしいウェルビーイングを見つけるための実践ヒント

東洋の視点を加えた私たちの研究が明らかにした6つの鍵は、私たち一人ひとりが自分らしいウェルビーイングを見つけるための具体的なヒントを与えてくれます。それでは今度はこれらの要素を日常生活にどう取り入れるか、考えてみましょう。

まず、「非地位財」の視点を取り入れること。非地位財とは、他人との比較ではなく、それ自体に価値があり、満足が得られるもののことです。例えば、愛情、健康、自由、自主性、どこかに属しているという感覚とか、誰かの役に立っているという思い、などでしょうか。SNSなどの発達により私たちはつい、他人の持ち物やステータスと自分を比較してしまいがちですよね。でも非地位財に重きを置くうちに、人と比べることから解放されてきます。これは実は「足るを知る」という考え方にも通じるんですね。外的な足りないものに依存しない、今ある内なる豊かさを育むことにつながるからです。つまり、足りないものを追い求めるのではなく、今あるもの、すでに満たされていることに気づき、感謝する視点を持てるんですね。

それから「つながり、絆」の価値を再認識することです 。西洋が個人主義を重んじる一方で、日本は古くから集団のなかでの調和とか絆といったものをとても大切にしてきました。家族、友人、地域社会、職場など、身近な人たちとの温かい関係性や、互いに支え合う「絆」は、日本文化におけるウェルビーイングにとって不可欠な要素です。積極的に人との交流を持ち、その感謝や共感の気持ちを表現することで、より豊かな人間関係を築き、より充足感を得られるようになると考えられます。

さらに日本の豊かな文化から、心の整え方を学ぶこともできそうです。

茶の湯や生け花
一つ一つの所作に集中し、「間(ま)」や「空間」といったものをイシキすることで、心が落ち着き、研ぎ澄まされていきます。不完全なもののなかに美を見出す「わび・さび」の精神も、入っていますよね。

仏教や禅
特に「坐禅」は、呼吸や身体の感覚にイシキを集中し、「イマ・ココ」に心を置くことで、感情に振り回されない「平静」な状態を育みます。これは最近注目されているマインドフルネスの元にある考え方でしたね。

これらの文化的な営みは、私たちに「中庸」の精神を教えてくれます。極端に走らず、バランスを保ち、心のゆとりを大切にすることで、日々の生活のなかに穏やかな幸せを見出す…。そう。私たちの幸せは、「作る」というより、すでにそこにある幸せに「気づく」ことの連続なんですよね。

あなただけの「トリセツ」をアップデートし続ける

今日ご紹介した6つの鍵、そして日本ならではの文化や考えが、あなたの「トリセツ」をアップデートするヒントとなりますように。完璧を目指すのではなく、不完全さを慈しみ、今ある幸せに感謝する。幸せは、遠い場所にある「めざすもの」ではなく、日々のささやかな瞬間に「気づく」もの。自分なりの心地よさで、日々を丁寧に過ごし、呼吸が止まるその瞬間に「あぁ、満ち足りた良い人生だったな」と思えるように。真のウェルビーイングとは、そういうものかな、と思っています。

参考文献
・大石繁宏 (2009). 『幸せを科学する一心理学からわかったこと』. 新曜社.
 
・Seligman M.E.P. (2004). Authentic Happiness: Using the New Positive Psychology to Realize Your Potential for Lasting Fulfillment. Atria Publishing.
 
・Shimada K. & Kiriu M. (2024). Development of an Integrated Well-Being Scale for Japan. Japanese Society and Culture, 6, Article 7.
https://gensoken.toyo.ac.jp/japanese-society-and-culture/vol6/iss1/7
 
・Uchida Y. & Kitayama S. (2009). Happiness and Unhappiness in East and West: Themes and Variations. Emotion, 9(4), 441-456.

島田恭子(しまだきょうこ)
予防医学者・保健学博士。医学や心理学の知見を、女性のウェルビーイングに役立てたいと活動中。(社)ココロバランス研究所代表。
https://customer-harassment.org/kyokoshimada/

TEXT=島田恭子

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