染色を中心に自然素材や廃材を使った作品制作を行う現代美術家・山本愛子さん。染色と旅を通じて得た、ささやかな気付きをつづる。【連載「植物と私が語るとき」】
湖を見つめて、源をたしかめる
今年の夏、群馬県の榛名湖のほとりにあるレジデンス施設に1週間の滞在をしてきました。目的は群馬県内の染織文化のリサーチです。
富岡製糸場をはじめ染織の歴史が豊富な群馬県。朝から晩まで、博物館や美術館や工房に出かける日々でした。あれも見たい、これも見たいと予定を詰め込み、毎日へとへとでレジデンスに帰ってくると、夕日に照らされ佇む榛名湖が待っています。湖の周りには、ユウスゲやユリなど湖に似合う上品な植物が生息しています。
私もそんな植物になりきるように、じっと湖の前にしゃがみ、日が暮れるまでぼーっと水面を見つめました。夕日を照らして波紋は細かくキラキラし、まるで絹糸のように見えたり、漆のぬめりに見えたり、藍の染料液の表面に見えたり。毎日染織のことを考えているからでしょうか。自分の内側が湖に照らされたようでした。
富岡製糸場は建設候補地を探す際、川が近いことが決め手だったそうです。絹を作るには大量の水が必要なのです。植物も水が命の源で、人間はその植物から糸を作ったり、染料を作ります。そんな私たち人間の体も60%は水でできています。湖に照らされながら、すべての源は、どこでもないここにあるんだと、ハッと気付かされたのです。
山本愛子(やまもとあいこ)
1991年神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院先端芸術表現科修了。自身が畑で育てた植物や外から収集した植物を用いて染料を作り、土着性や記憶の在り処を主題とした作品を制作している。