染色を中心に自然素材や廃材を使った作品制作を行う現代美術家・山本愛子さん。染色と旅を通じて得た、ささやかな気付きをつづる。【連載「植物と私が語るとき」】
ポテトチップスの原風景
先日北海道美瑛町の「佐藤農園」さんの農道を歩かせてもらう体験をしました。広さはなんと東京ドーム15個分以上。農道へ入ると、観たことのない風景が立ち現れてきて、美しすぎて私はしばらく絶句。見渡す限り自然しかないけれど、明らかに人間が意図して作った人工的風景で、だけど自然への愛と敬意をひしひしと感じるのです。まるで農家さんの、命の彫刻作品のよう。視界の奥まで広がる黄金の小麦畑や、真っ白い花を咲かせるジャガイモ畑が、太陽に照らされ宝石のようです。
農家さんが「このジャガイモ達はみんなポテトチップスになるよ」と言っていて、びっくり。そうか、ポテトチップスって土の恩恵を受けているんだよね…という事実を再認識。ポテチ=ダイエットの敵=不健康、みたいな私の固定観念が、風景を前にしてサラサラと風に流され消えていくのを感じました。同時に、なんと健康的な風景から生まれた食べ物だろうと敬意の念が湧いてきます。
ジャガイモが加工され、包装され、陳列棚に置かれるときには、この原風景の美しさまで消費者はなかなか到達できない。このもどかしさを心に抱えたまま、北海道から帰ってきてこの文章を書いています。小さなコラムから、少しでもこの風景が届きますように。
山本愛子(やまもとあいこ)
1991年神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院先端芸術表現科修了。自身が畑で育てた植物や外から収集した植物を用いて染料を作り、土着性や記憶の在り処を主題とした作品を制作している。