「甘える」って悪いことだと思ってない? 上手に“甘えること”は、プライベートでも仕事においても、信頼関係をより強くする。公認心理師・塚越友子先生に、相手を頼る・頼られることの大事さについて聞いてみた。
甘えは武器ではない。信頼関係の健全さの表れ
最近、甘えられない人が増えているそうですが、もし上の立場の人(上司・先輩)が「最近の若い子たちは甘え下手だよねー、可愛げがないよねー」と言っているなら、それはその人たちが問題。むしろ、甘えていない人たちは自立しているのでは?と思います。上の世代の人たちが古い考え方で、場合によっては、女性の自立を阻害したり、男尊女卑があるかもしれない。甘える=女の武器と思っているなら、時代錯誤です。
そもそも、甘えは「人の善意を前提にそれに依存する」こと。愛されたいという欲求や願望、無力さというのが基本にあります。甘えはひとりでは成立せず、甘えたい側、甘えられる側があり、対人関係のなかで成り立つものです。かつては依存欲求とほぼ同じ、情緒的な依存といわれていましたが、それが悪いかというと悪くはないのです。ちなみに「甘える」には、感情、情緒的に甘えたい、話を聞いてほしいという甘えと、道具的な甘え(金銭的なサポートや手伝ってもらうこと)のふたつがあります。
甘える行為は関係性の強さ、健全さを表します。甘える、甘えられるというのは、お互いが信頼していて、関係性が強い証拠。少々ワガママを言っても助けてもらえる、愛情ちょうだいよ、あげるよ、という関係です。ただし、関係性の健全さを表す一方で、無力だから愛してよ、助けてよ、という欲求でもあるため、人の未熟さ、自分勝手さ、悔いの意識、社会に対する常識の欠如なども出てくるもの。両面があるから、「甘えたいけど、甘えたら自分勝手などと思われちゃう」と懸念し、行動に移せません。
甘えを特別視せず、頼り・頼られることと捉え直して
甘えの始まりは、子供時代。子が親に甘え、親が上手く甘えさせるという関係のなかから、自分は人から愛されたり支援を受けたりする価値のある人間であるという“自分OK”という感覚を培います。すると、他者の反応を肯定的に予測することができるようになり、他者を頼ったり、信頼できるという他人もOKという感覚も獲得します。自己観も他者観もポジティブであると適切な甘えの感覚ができ上がります。甘えとは、自分も他人もOKという感覚を持ちながら信頼関係をベースに頼り・頼られながら関係性を構築していく際のスパイスのようなものともいえます。
また、甘えは基本的には甘えたい側の欲求から始まりますが、ときには相手の欲求から始まることもあります。上司が自分の部下育成に自信がなく、それを察知した部下が上司を頼り、上司に自信をつけさせるというパターンです。「最近の若い子は甘え下手だ」などと発言している上司には、戦略的に甘える=頼ると関係性も強化されるのです。一方で、男女間での甘えは、注意しないと依存や相手への服従を生む副作用もあります。甘えをあまり特別なことと考えず、人間関係で相手を頼り・相手から頼られることだと捉え直すと、いいのではないでしょうか。
甘え上手&甘え下手は4タイプに分かれる。あなたはどのタイプ?
タイプ1:甘え上手タイプ
「自分は人に愛される」「助けてもらえる価値がある」と思えてきたので、甘えを素直に楽しめるタイプ。自己観も他者観もポジティブで、自己が確立しているから、他者の成長や自己実現の手助けができる“甘えさせ上手”でもあります。
タイプ2:甘え気兼ねタイプ
「私なんかが頼ったら、迷惑だよね」「お世話になるのは申し訳ない」など、自分が甘えることに遠慮するタイプ。甘え自体は良いことでもあるものの、相手の迷惑にもなりうると考えています。相手の反応を見すぎることを少しだけ減らしてみるといいかも。
タイプ3:甘え恐怖タイプ
「甘えることはいけない」と思っているタイプ。自分は甘えない人間である、甘えるべきではないという価値観が強く形成されてしまっています。甘えへの嫌悪感もあるので、まずは「甘える=悪ではない」と認識を改めてみましょう。
タイプ4:屈折甘えタイプ
このタイプは素直に甘えられず、すねたり、ひがんだり、不貞腐れたり、悔しがったり、突然、気持ちが爆発したりと極端な甘え方になります。自分でも甘えとはどういうことかわからずに混乱しているので、甘えたいときの自分の感情を観察してみて。
塚越友子(つかこしともこ)
公認心理師・臨床心理士。女性専用カウンセリングルーム「東京中央カウンセリング」代表。雑誌・TVなどのメディア、講演会でも活躍。「銀座No.1ホステスの上司の評価が上がる知的なルール」( 扶桑社)など、水希名義の著書多数。