女性医療ジャーナリストの増田美加さんによる連載。人生の基礎になる“健やかな体”を手に入れるための最新知識をお届けします。
この鼻水は風邪?花粉?迷ったときのチェック法
2021年春の花粉飛散予測(第3報)が日本気象協会より発表になりました。今年の花粉の飛散は2月上旬からスタート。3月は各地でスギ花粉がピークになりそうです。昨年春と比較してみると、九州から関東にかけては多く、四国や東海、北陸では非常に多くなる予想。
昨年はいつもより少なかったから、昨年、症状が軽かった人も、今春は注意が必要です。
そこで選択肢が広がった花粉症治療の現状をお伝えします。
まず今年は、コロナ禍でもあり、風邪か、花粉症かの見極めが大切になってきますね。そんなときは、下記の症状の有無をチェックしてみましょう。
□ 高熱、激しいのどの痛み、粘り気のある鼻水などの風邪特有の症状がない
+
□ 目のかゆみがある
□ 連続してくしゃみが出る
□ 水のように透明な鼻水が出る
上記のような症状に当てはまったら、風邪ではなく、アレルギー性鼻炎(花粉症)の可能性があります。
体質だから・・・とあきらめず、根治療法の選択も
花粉症の人は、コロナ禍の今シーズンも引き続き、対策が必要です。
くしゃみ、鼻水、鼻づまりといった症状のほかにも、眠気、イライラ、思考力低下といった症状もあるため、放っておかずに対策したいものです。
花粉症に10年以上も悩んでいる患者さんが、花粉症や通年性アレルギー性鼻炎の症状がある15歳~64歳の男女全体の5割以上もいるという調査があります(※)。一度、花粉症になると、体質だから仕方がないと諦める人も多いですが、日常生活に差し支えると感じている人は、対処療法だけでなく、根本治療も可能です。
スギ花粉症には、対症療法と根治療法があります。対症療法は、症状を軽減するために行う治療法で、飲み薬、点鼻薬、点眼薬などですが、最近は根治療法も選択できるようになりました。
※「通年性アレルギー性鼻炎・花粉症 全国意識・実態調査」(鳥居薬品調べ)
対症療法は、眠気などの副作用が少ない新しい薬で
多くの人が行っている対症療法では、私たち患者にとって使い勝手のよい、新しいお薬が出てきています。
病院で処方される花粉症の治療薬としては、抗ヒスタミン薬とステロイド鼻噴霧薬が中心です。
1990年以降にできた抗ヒスタミン薬は、眠気や口の乾きなどの副作用がかなり少なくなっています。
一方で、それ以前からある、眠気の出る抗ヒスタミン薬が処方されるケースもまだあります。市販薬にも、眠気のある治療薬が少なくありません。
ですから、病院で処方してもらうときや市販薬を購入する際は、「運転することがあるので、眠くならない抗ヒスタミン薬をください」と言って選ぶことが大事です。
日本の鼻アレルギー診療ガイドラインで、患者にとって理想的な抗ヒスタミン薬は、
・速効性があり効果が持続。
・眠気や作業効率低下などの副作用が少ない。
・安全性が高く、長期投与が可能。
・投与回数が1日1~2回で使い勝手がよい。
となっています。
皮膚に貼る薬と新しい注射も登場!
また、医師処方薬で貼るアレルギー性鼻炎薬ができました。経皮吸収型アレルギー性鼻炎治療剤「アレサガテープ」です。この薬は、血中濃度が安定し持続性があり、眠気の副作用も減ると期待されています。
皮膚に貼って使う治療薬で、皮膚に貼るタイプのアレルギー性鼻炎、花粉症治療薬として、世界初です。
飲み薬に比べて、血中濃度の上昇が緩やかなため、副作用が比較的出にくく、効果が安定して、効き目が長く期待できるという特徴があります。
使用方法は、1回4mgの貼付剤を胸部、上腕部、背中、腹部のいずれかに貼って、24時間ごとに貼り替えます。症状に応じて1回8mgに増量も可能と言われています。
副作用としては、「眠気」「だるい、力が抜けた感じ」「口が乾く」「貼った場所が赤くなる、かゆくなる」などとなっています。
大事なのは、治療開始のタイミングです。花粉が本格飛散する数日前から、薬の使用を開始することが大事。新たな治療の選択肢が増えたので、医師と適切な治療対策を早めに相談しておきましょう。
また、これまでのお薬による治療が効かない重症な花粉症の人には、生物学的製剤の注射「ゾレア」も出てきました。
「ゾレア」は、季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)の症状を引き起こすIgE抗体に作用して、アレルギー反応の元を抑える薬です。花粉のシーズン中、2週間ごと、あるいは4週間ごとに1回、注射をして症状を抑えます。
根治療法には、注射だけでない舌下免疫療法が登場
根治療法には、「皮下免疫療法」と「舌下免疫療法」があります。
「皮下免疫療法」は、病院でスギ花粉の成分の入った注射をしてもらい、段階的にアレルゲンに体を慣らしていき、症状を抑える治療です。
もうひとつの「舌下免疫療法」は、医師処方の錠剤を舌下に入れ、唾液を1~2分飲み込まずに溜めておき、少しずつ体内に取り込んで症状を抑える治療です。
舌下免疫療法は、毎日自分で錠剤を入れるため、通院回数が減るなどのメリットがあります。
いずれの免疫療法も、健康保険の対象になっています。治療は、数年に渡る継続(3年以上推奨)が必要です。
現在、全国のアレルギー治療を行う医療機関のなかで、免疫療法が行えるのは約60%。
ただし、花粉の飛散時期は、治療を新たに開始できないため、今年の花粉シーズン終了後の治療になります。
症状が軽くても日常生活に影響があるなら、免疫療法などの根治療法も選択肢として考えてもいいかもしれません。花粉症を治したり、長期にわたって症状を抑えられる可能性が期待できます。
舌下免疫療法は、日本で10万人以上が行っていて、年々症状が軽くなる人もたくさんいます。
セルフケアは想像以上に効果があります!
花粉の飛散が始まってからのセルフケアで大切なのは、花粉が体内に入ってこないようにする注意や工夫です。花粉対策には、コロナ対策と同様、マスクが大切。メガネも対策になります。
また、花粉が家の中にできるだけ入らないようにすることも心がけます。
日常生活での対策は、思っている以上に効果があります。厚労省と環境省の花粉対策情報からセルフケア法をまとめました。
1. メガネ、マスクを着用する
外出時は完全防備。コンタクトレンズの人も伊達メガネやサングラスを着用するとよいでしょう。マスクもピッタリとすき間を開けずに装着。マスク内側に当てガーゼを付けると、さらに効果が高いとされています。帽子、マフラーも効果的です。
2. 花粉のつきにくいコートを選ぶ
コートは花粉のつきにくい、表面に凹凸がないツルツルした素材を選びます。ウール素材などのコートはできるだけ避けます。ポリエステルや綿製品で起毛のない衣類を着用します。
3. 外出から帰ったら玄関外で花粉をよく払い落す
家の中に花粉を持ち込まないために、玄関前でコートの花粉をよく払い落します。帽子やマフラーを払うのも忘れずに。
4. 帰宅後はうがい、洗顔、目を洗う
体についた花粉を洗い流すことも大事。帰宅後はすぐに、うがい、洗顔、目を洗うことを毎日の習慣として心がけましょう。
5. 洗濯もの、シーツ、布団は外に干さない
花粉の季節は、洗濯物は室内干しにします。シーツ、枕カバーなどの寝具はまめに洗濯しましょう。掃除をこまめに行い、掃除機だけでなく、濡れ雑巾やウエットモップで掃除すると効果的。
6. 空気清浄機を玄関に使う
空気清浄機をできれば玄関に置いて、花粉を入れない対策に。また乾燥すると、花粉が舞いやすいので、加湿器も効果的。コロナ禍で換気が大事ですが、換気をするときには、レースのカーテン等で遮り、開窓を10cm程度にとどめることも花粉対策には大事です。
花粉情報の要注意日をチェックしましょう!
気象情報や花粉情報をチェックして、花粉の飛散が多い日は、特に念入りに対策をしましょう。次のような条件は、花粉が飛びやすい日です。
□ 天気が晴れ、または曇り
□ 最高気温が高い
□ 湿度が低い
□ やや強い南風が吹き、その後北風に変化したとき
□ 前日が雨
前日、または当日の未明まで雨で、その後天気が急に回復して晴れ、南風が吹いて気温が高くなる日が要注意日です(日本気象協会より)。
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