女性医療ジャーナリストの増田美加さんによる連載。人生の基礎になる“健やかな体”を手に入れるための最新知識をお届けします。
女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが告白したことでも有名な「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」。乳がんと卵巣がんのなかには、遺伝によって起こるものがあることがわかってきています。乳がん患者さんのなかで、遺伝性の乳がんは約5~10%と言われています。遺伝性の乳がんになりやすい人はどんな人か? チェックする方法と気をつけるべきポイントをまとめました。
乳がんのうち、5~10%が遺伝性です
乳がんを心配する人が増えています。では、どんな人が特に気をつけるべきでしょうか?
「乳がんは遺伝する?」という質問をよく受けます。その答えは、「YES」です。遺伝性の乳がんもあります。
乳がんだけでなく、卵巣がんもそうですが、5~10%は、遺伝的な要因が強く関係して発症していると考えられています。
遺伝的なもののなかで最も多くの割合を占めているのが、アンジェリーナ・ジョリーさんが告白した「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」なのです。
HBOCは、誰もがもっているBRCA1遺伝子、またはBRCA2遺伝子の病的な変異が原因で乳がんや卵巣がんを高いリスクで発症する遺伝性腫瘍(がん)のひとつです。
この「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」などの遺伝性、家族性の乳がんは、乳がん患者さんのうち、約5~10%が該当するといわれています。
けれども裏を返せば、乳がんの原因の約90%前後は遺伝性ではなく、女性ホルモンのエストロゲンの影響や生活習慣などが関係しています。
自分が遺伝性乳がんにかかりやすいかどうか、見極めるには?
「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」を症状や診察で診断することはできません。
けれども特徴としては、
〇乳がんを40歳以下の若い年齢で発症している
〇左右の乳房に同時に乳がんを発症した
〇時期は異なるが、同じ乳房、あるいは別の乳房に乳がんを発症した
〇乳がんだけでなく卵巣がんも発症した
などがある乳がんの方は、「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」の疑いがあります。
また、血縁者に、乳がんや卵巣がんの方が複数いらっしゃることもHBOCを疑う特徴です。
けれども複雑なのは、乳がんや卵巣がんを発症した方のなかには、これらの特徴が必ず見られるわけではなく、今あげた特徴がなくても「BRCA1/2遺伝子検査」の結果で「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」と診断された症例もあります。
「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」は遺伝性の病気で、BRCA1/2遺伝子の変異は、親から子へ、性別に関係なく50%(1/2)の確率で受け継がれます。
遺伝性の乳がんが心配な人はどうしたらいいの?
下記にあげた「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」チェックリストに当てはまる人はもちろんですが、第一血縁者(親、姉妹、子ども)にひとりでも乳がんや卵巣がんの方がいて、乳がんの発症を心配する人は、乳腺専門医や専門の遺伝カウンセラーに相談しましょう。
「日本乳癌学会」のホームページ(http://jbcs.gr.jp/search-jbcs/senmon/)を参照すると、全国の乳腺専門医の一覧を見ることができます。
また、全国の「がん診療連携拠点病院」(厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/gan04/index.html)は全国に351病院あって、そこでは、遺伝カウンセリングを行う「遺伝相談窓口」も設置されています。
「遺伝相談窓口」では、プライバシーに十分な配慮をしながら、カウンセリングを行い、その結果によって検査を希望する人にだけ「遺伝子検査」を実施します。
さらに、予防や早期発見、早期治療の方法や、社会的サポートについてなどの情報や、患者さんが自分に合ったよりよい対処法を選択する手助けをしてくれます。
心配な人はHBOCチェックをしてみましょう
HBOC(遺伝性乳がん・卵巣がん症候群)チェックリスト
母方、父方それぞれの家系について、以下の質問に答えてください。あなた自身を含めた家族の中に該当する方がいる場合に、□にチェックを入れてください。
□ 40歳未満で乳がんを発症した方がいますか?
□ 年齢を問わず卵巣がん(卵管がん・腹膜がん含む)の方がいますか?
□ 家族のなかでひとりの方が時期を問わず原発乳がん(転移ではない乳がん)を2個以上発症したことがありますか?
□ 男性の方で乳がんを発症された方がいますか?
□ 家族のなかで本人を含め乳がんを発症された方が3名以上いますか?
□ トリプルネガティブ(エストロゲン受容体・プロゲステロン受容体・HER2の3つが腫瘍細胞に発現していない乳がん)の乳がんといわれた方がいますか?
□ 家族のなかにBRCAの遺伝子変異が確認された方がいますか?
ひとつでも該当する項目があれば、HBOCである可能性は一般よりも高いと考えられます。乳がんの発症を心配する人は、乳腺専門医や専門の遺伝カウンセラーに相談しましょう。
「特定非営利活動法人HBOCコンソーシアム」より
http://hboc.jp/index.html
http://hboc.jp/downloads/pamphlet_ver3_1023.pdf
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