世の中で流行っているモノゴトの背景に、必ずといっていいほど存在するものがある。それが「PR」のチカラ。PRの仕事に携わるプロフェッショナル、WORKING FOREVER代表の西澤朋子さんが綴る「この仕事の裏側」第1回。【シリーズ/お仕事エッセイ】
「PRの仕事って何ですか?」と聞かれたらこう答えています
はじめまして。私は、「WORKING FOREVER(ワーキングフォーエバー)」という名前のPR会社の代表の西澤朋子です。「WORKING FOREVER」という社名には「おばあちゃんになってもずっとずっと仕事していたい!」という想いが込められています。
名刺を差し出すとき、「うぅわーぁあ、ブラック企業だね、一生働くなんて自分には考えられないやぁ」と言われる場合と「ワーキングフォーエバー、共感します」と言われる場合、二通りの反応をいただきます。その人なりの仕事観が見えて面白いです。バリバリ、ガツガツではなく、「わくわくした気持ちを持ち続けながらWORKING FOREVERし続けていきたい」そう思っています。
空気や温度、タイミング…目に見えないものを捉えて
PRという仕事をして20年ほど経ちます。今回「PRの仕事って何ですか?」というテーマをいただき、初心に返った気持ちで改めて「PR」という仕事について考えてみました。
私の考えるPRとは、「空気や温度、タイミング、目に見えないものを捉えて、いつの間にか欲しいという気持ちにさせること」。少しわかりにくいかもしれないので、私がPRに興味を持ったきっかけをお話しさせていただけたらと思います。
まだPRの「P」の字もよくわかっていなかった頃のこと。食品会社の試食販売でスーパーの売り場に立ち、「ご試食いかがですかぁぁぁー!!!」と声を張り上げ、行き交う人々に自社製品を薦めていたときのこと。あるときは「サバ」、あるときは「人参」、またあるときは「こんにゃく」というように、夕方になると決まって何かがいつも空っぽに売り切れる現象が。ーー誰もその場で、それについて大声で紹介したり、張り紙があるわけではないのに、なぜか飛ぶように売れていく。「この現象って何だろう?」そう思い、しばらく注意深く観察することにしました。
一言も「買って」と言わずに「欲しい」と思わせるPRの力
何かが売れるきっかけは、どうやら前の晩や、その日のお昼の番組、あるいは雑誌などで取り上げられていたからだと気付きました。テレビ番組や、雑誌、WEBなどのメディアで、信頼されるタレントや著名人がその商品に対して好意的な発言をしたり、その食材の良さがクローズアップされたりしたことで、飛ぶように売れていく。
その現象が「PR」という活動によって生み出されるものだと知った瞬間、物言わずに買いたい気持ちにさせてしまう「PR」が、「宣伝」と言われるものの中で、広告よりもSP(セールスプロモーション)よりも、自分にとって一番クールに感じ、胸がわくわくしたのを覚えています! それがPRとの出合いです。
自分の信頼する人の口から、適切なタイミングでその情報に出くわすことで、人の心は動かされるのです。PRは、人の心を力づくでコントロールするのではなく空気をつくり、温度を温め、タイミングを狙い情報を発信していくことで、知らず知らずのうちに、「欲しい」「買いたい」という気持ちを起こさせていく、そういう現象を創り出す活動です。
専門的な世界のことのように思っている人もいるかもしれませんが、実は誰もが日々「PRしている」と、私は思うのです。
人はみんなPRしながら生きている
たとえば、どうしても手に入れたいものがあったり、他人に評価されたかったり、そうした自分の思いを通したい日常のさまざまなシーンで、誰もがものすごいPR力を駆使しています。
唐突に「これが欲しい!」「私を理解して!!」と訴えても、きっと引かれるだけですよね。本当に伝わって欲しいときって、必死に知恵を巡らせて、伝えたい人の周りにある程度の空気をくってから伝えるはず。
好きな人に告白するときだったら「好きです!」といきなりは言わずに、まずは相手の友人たちに自分の評価を上げておいたり、自分に対する良い評判の空気づくりをしてから、ここぞというタイミングで告白する、とか。PRってまさにそれだと思うのです(笑)。思いを成し遂げたいとき、誰もが策略家になってあの手この手で空気や温度を温め、心理戦のようなPRを繰り広げているはず。
そう考えると、PRが身近で面白いものに思えてきませんか?
そしてPRのノウハウを知っておくことで、日常のさまざまな場面をしなやかに乗り切る武器にもなると思うのです。
西澤朋子 (にしざわともこ)
PR会社「WORKING FOREVER」代表/PRプランナー。東京生まれ。食品メーカーで宣伝を担当した経験からPRに目覚める。国内・外資系PR会社を経て大手PR会社経験後に独立。広報部の立ち上げや広報担当者育成まで、企業の広報支援を幅広く行う。社長と話す、人と話す、企業と二人三脚で広報課題に取り組むことが信条。
www.workingforever100years.jp/
Instagram @working_forever