商品やサービスを通じてSpark(ときめき&ひらめき)を発信している、働く女性をクローズアップする連載『 プロジェクトS 』。“S”はもちろん“Spark yourself!”の頭文字です。商品制作の舞台裏や仕事に対する想いなどをインタビューしていきます。企画や研究開発に携わる同世代の彼女たちから、仕事を楽しむヒントやコツが得られるはず!
今回は株式会社 明治で「明治 ザ・チョコレート」の商品開発に携わる、山下舞子さんのインタビュー続編をお届け。試行錯誤の末に完成した「明治 ザ・チョコレート」は、それぞれのカカオの個性を生かすバリエーション豊かなラインナップが魅力的。素材作りだけでなく、商品の形やパッケージデザインにも格別なこだわりの想いが込められていました。
素材を知るために工夫されたデザイン
ーリニューアル後のお客様の反応は?
日本ではミルクチョコレート派が多いというデータもあったので、ベルベットミルクが一番人気かと予想していたのですが、実際にはどのアイテムもあまり売れ行きに差がありません。やはり食べ比べをしてくださる方が多いようですね。
まずは自分好みの味を知っていただくことが、カカオにいろいろな味わいがあることを知っていただくための一歩だと思っています。例えば明治 ザ・チョコレートでベネズエラ産が好きだったから、他の専門店でもベネスエラ産を買ってみようとか。味の違いを知ると、チョコレートの選び方の意識も変わってくると思います。日本でもそんなチョコレートの楽しみ方が広がるといいなと考えています。
ー板の形も工夫されていますよね。
この形状に関しても挑戦でした。口に入れる量や形によってチョコレートの溶け方に差が出ることで、味の感じ方が変わるというデータがあるため、新しい商品を開発する度に適した形状を考えます。一般的にミルクチョコレートは厚みがあって、丸みがある方がミルクの濃厚さを感じられる。一方、ビターは薄くてシャープでエッジのたった形の方が、カカオの香りだちが華やかに感じる傾向があります。
それをお客様に感じていただくのも面白いのではないかと思い、1枚の生地の中にさまざまな形を組み込むことにしました。
ーこの形を決めるのも大変だったのでは?
そうですね。単なるデザインではなく、お客様に味の変化を感じてほしいという発想から考え始めました。当初はミルク系とビター系で別々の型を作ろうと試みましたが、分けるとなるとそれなりにコストもかかるので、そこまでわがままは通じず (笑)。そこで1枚の生地に落とし込むのはどうだろう、と考えました。
抹茶はカカオポッド(実)の柄をあしらった平坦なデザインです。これももちろん、味を最大限に生かすための選択です。
ーそもそも板チョコにすることは決まっていたのですか?
実はそれも決まっていなかったんです。旧型商品は薄いスティック状のチョコレートを個包装して、一箱に7本入りの構造にしていましたが、もしかしたらこの構造もダメだったのかもしれないと思って。
これから私たちはこのチョコレートをベースに、日本のコンビニやスーパーに“スペシャリティチョコレート”の領域を設け、市場を作りたいと思っています。市場を作るには、その土台が必要になります。そのため極力無駄を省き、チョコレートの生地そのものをしっかり味わえるものであるべきだと考えました。
「シンプルな包装形態であること」「カカオの香味がしっかり感じられること」「変わらない普遍性」。これらの要素を考えるとチョコレートのシンボルである“板チョコ”の形状がベストでした。そして日本では横型の板チョコが多いのですが、一方チョコレート文化の先進国であるヨーロッパでは縦型が主流です。売り場の陳列棚にズラッと並ぶ姿を考えて縦型を採用しました。
外見はシンボリックな板チョコ。とはいえ、板チョコ1枚を丸々食べ切るのはなかなかハードルが高いですよね。板チョコのニュースタンダードを作りたいなという思いもあり、1回で食べきれるほどの量と保管のしやすさを考慮して、3つに個包装しました。
作り手のこだわりが感じられる、世界基準の板チョコを
ーパッケージデザインはどのように考えたのですか?
パッケージもかなり大きなチャレンジでした。テーマは「一般のチョコレート売り場に専門店を作ろう」。メーカーが作るものは作り手の顔が見えにくいので、シンプルで手作り感のあるクラフト調をベースに、カカオ作りに対する情熱をカカオポッドのイラストに込めました。柄や色は、香味の違いやカカオがもたらす気分をイメージしています。
ーSNSでパッケージを加工した作品がたくさん出ていますよね。
そうなんです! 私たちもまったく想定していなかったのですが、みなさん本当に器用で驚いています(笑)。カカオポッドの部分を切り抜いてしおりにしたものから始まり、iphoneケースや手帳などたくさん遊んでいただけて嬉しいですね。箱の内側にも柄が入っている点も、ものづくりに向いているようです。
ーバレンタイン限定商品について教えてください。
一般発売していないエクアドル産のカカオを使用したダークチョコレート、メキシコ産ホワイトカカオのダークとミルク(ミルクのみサロン・デュ・ショコラ限定)。そして、食べ比べができる一口サイズを詰め合わせたアソートボックスの4品です。サロン・デュ・ショコラでは、カカオドリンクも展開します。カカオの果肉を絞ったジュースとチョコレートペーストを混ぜながら飲んでいただくもので、カカオがもともとフルーツであることが実感出来る商品だと思います。
ーホワイトカカオは、普通のカカオとどのような違いがあるのですか?
ホワイトカカオは世界のカカオ豆の中で、生産量が1%に満たないといわれている希少なカカオです。一般的なチョコレートは、実を割って取り出した直後の生の豆が紫色をしていますが、白いものがホワイトカカオです。外見は大きな違いがないので、割ってみないと判断がつきません。ホワイトカカオは苦渋みが少なくクリーミーなコクがあり、芳潤なアロマがあるのが特徴です。
弊社では豆がなる実 → 実がなる木 → 木がなる土地(農園)から育てようという発想から『Farm to Bar』という、苗木からホワイトカカオの農園を作る取り組みをしています。メキシコにホワイトカカオだけがなる木があり、そこから苗木を育てています。
“嗜好品としてチョコレート”を日常に
ーより美味しく食べるための、おすすめの食べ方はありますか?
私たちも実験中ですが、普段よく飲まれる飲み物とのマリアージュを楽しんでいただきたいです。コーヒーにしても、チョコレートの種類によって驚くほど違いが感じられますよ。個人的には煎茶とチョコレートの組み合わせが好きです。お茶とチョコレートの香りがふわっと広がって、面白いなと思いました。ブリリアントミルクと緑茶も合いますよ。ウイスキーは、ベルベッドミルクと相性が良かったですね。ワインも試したいと思っているところです。
ー今後もラインナップは増えていくのでしょうか?
カカオ豆の栽培を順次行なっているので、新しい香味のカカオが出来たら展開したいと思っています! 2〜3年後には皆さんが友達と「私は酸味の強いチョコレートが好き」「私は香ばしいのがいいなあ」なんて会話をする姿をみられたらいいなと思っていて、その土台となるアイテムを追加していきたいです。
近年バレンタイン市場がさらに拡大し、希少価値の高いチョコレートを味わえる機会も増えてきました。恋人や友達とチョコレートを交換するもよし、ひとりで美味しいチョコレートを心ゆくまで堪能するもよし。素材選びから食べ方まで、自分好み、相手好みの味を探っていくとチョコレートがもっと面白くなりそうですね。
明治 ザ・チョコレート
http://www.meiji.co.jp/sweets/chocolate/the-chocolate/