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TIMELESSPERSON

2025.08.17

ホース、氷、そして皿焼酎~夏と戦ってみた結果たどり着いたもの【長井短】

女優・モデルとして活躍する長井短(みじか)さんが、相手にとって都合よく「大人」にされたり「子供」にされたりする、平成生まれでビミョーなお年頃のリアルを描くエッセイ「キリ番踏んだら私のターン」。

夏だから暑いんだけど、これはさすがに暑すぎるって

いくらなんでも暑すぎる。元来「暑い」とか「寒い」って体感に対してのリアクションが薄め、暑くても夏なんだから当然っしょってな具合に、日に焼けながら汗をかくことを悠然と楽しめる私も、ちょっとお手上げ状態である。

何年か前までの私は「暑い」とうざったそうに言う人々のことが理解できなかった。夏なんだから当たり前でしょう。暑さこそが夏だって言うのに、なぜこの人は文句を言う? じゃあ涼しい方がいいのか? 涼しい場合それは夏ではないぞ? いいのか? さぞウザかったと思う。

その節は申し訳ありませんでした。今なら、皆さんの気持ちがわかる。あっちーよ! 夏っつっても限度があんだろ! やりすぎだよ!!

影の中から日向を見ると「私は今涼しいの側にいる」と感じることができる。日向の日陰の境目をやけに探すようになった。どの境目も美しいなと気付けたのは暑さに感謝。

冷房をつければいいとか、日傘をさせばいいとか、言うけど。正直そんな次元ではない。この暑さはもはや、現在の文明ではどうしようもない暑さだと感じている。現在の文明を作り出すための努力、の結果進んだ温暖化、のせいで、現在の文明でどうにもできないほど暑くなってしまうこと……引きで見たら大いに喜劇だけど、渦中にいるので十分悲劇である。どうすんだよこれ。

 

クーラーつければもちろん和らぐけれど、それはあくまで家の中での話だ。それに、家の中をクーラーパワフル運転にしていても、心までは涼しくならない。ふと洗濯物を取りに出たベランダで、熱風を吐く室外機と相対した時。その澱んだ熱風は毛穴から私の体内へ入り込み、脳を突く。

「これでいいんですよね? 涼しいですもんね?」

いやまぁ……つけないとどうしようもないんだけど、でも、なんかもう、あんまり涼しいと思えない。暑さをお隣さんに押し付けてるみたいで気悪いし。そう、気悪い。涼しくても全然気持ち良くないのだ。

それでも気持ちよく夏を過ごすためにやった3つのこと

夏はとにかく気持ち良くあってほしい。良い思い出も悪い思い出も、気持ち良く色褪せていく季節が夏だと思っている。でも何これ? 全然気持ち良くないじゃん今年。暑すぎて、そもそも何かをしようという気力が湧かない。汗だく大好きだったのに、ひたすら面倒だと言う気持ちが勝ってしまう。実際の気温とか、暑いって体感とかの話ではなく、もっと根っこの、夏に対してのワクワクみたいなものを失いつつあった。これはいかん。いかんすぎる。遺憾でもある。どうしたら夏を楽しめるのだろう。失った夏……君と夏の終わり、将来の夢、大きな希望……忘れたくないのである。帰ってこいよ夏。

まず私がやったのは、ホースの購入。蛇口にくっつけるあのホースです。ホースさえあれば、どこにでも水を撒くことができる。一瞬、東京オリンピックの際「水を撒いて……」と言っていた女帝の姿が浮かんだが無視。私の暮らしは国家単位でのイベントではない。私の暮らしを、水で冷やそう。

試しにベランダに水を撒いてみると、あらぁ~。さっきまでぬるくキモかった風が、心地良い風に変わった。「涼」って漢字が構成される前の線が、風に乗ってやってきているみたい。最高じゃん。

次はである。コップで飲み物を飲む時、水筒で持ち歩く時。いかなる時でも氷を大量に入れた。歩けば音がするほどに。「カランカラン」って音は下駄の音のようで、仕事に向かっていても夏祭りに行くような気分になる。はい成功。氷マジしごできでーす。

そしてお酒。先日行った居酒屋に「皿焼酎」なるものがあった。大きなお皿に沢山の氷と半分に切ったすだち。そこに焼酎がドバドバ入っているのだ。お玉でグラスに掬って飲む。最初はほとんどロックに近いその飲み物は、時間経過でゆっくり水割りになっていく。

なんて理に適った飲み方だろう! しかもずっと冷たい。もちろん視覚的にも冷たい。家族全員分のそうめんが入ってるみたいな大皿に揺れるすだちは風鈴のようで、風情の極致。

「文明の涼」じゃ心が冷えない

以上3つの涼しさに思いを馳せた結果。自分の家から駅までの道のりを水浸しにし、氷とすだちをそこかしこにバラ撒く必要があると思い至った。そして同時に、もしそれを行ったら逮捕されるんだろうかとも過った。水と氷は溶けて無になるから良いとして、すだちはなぁ。残るしなぁ。カラスとか食べにきて、沢山の生き物たちの宴会場になってしまうかもしれない。そうなったら怒られそう。それに、アスファルトに落ちてるすだちはあんまり涼しげではないかもしれない。

暑すぎて、プールみたいな配色を見つけるとしばらく見つめてしまう。写真も撮っちゃう。ちょっとだけ心が涼しくなるので、街では水色を探すことをお勧めします。

じゃあ逆に、私が家で、すだち水風呂に浸かり、全く体を乾燥させないまま歩いたらどうだろう。逮捕はされない。でも涼しいのか? 濡れてる方が乾いているより涼しそうだけど、ビーチじゃないしな。それに、もし乾かないまま駅に到達してしまったら困ったことになる。

と、ここまで書いて、やっと我に帰る。

私は一体何を考えてるんだ? ふざけてんのか?

いいえ、全くふざけてなどいなかった。私は至極真面目に、いかにして涼を取るか考えていたのだ。なんか結局、最終的には江戸っ子みたいな案しか出てこないんだな。携帯扇風機とか、アイスノンとかあるけど、でも自分が心から「涼しい」と思えることは、そういう文明の力ではなく、私から私への機転なんだろう。良い機転ないかなぁ。

とりあえずリュックに風鈴つけようかな。リュック型の水鉄砲持ち歩こうかな。常に浴衣で歩いたろうかな。衣装さん驚くだろうな。着替えに時間かかるし却下。

結局いい案は見つからないまま、明日も炎天下を歩く。せめてもの抵抗として、50メートル歩くごとに「夏だ!」と叫びたい。幼い頃の自分を真似て。

この記事は幻冬舎plusからの転載です。
連載:キリ番踏んだら私のターン
長井短

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