東京・白金台にある東京都庭園美術館で、鉄とガラスという異なる素材を使って作品を創り続けている現代アーティストの青木野枝と三嶋りつ惠の企画展「そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠」が開催中です。設置される空間との関係性を重視する作品を展開する二人が、アール・デコ様式の旧朝香宮邸の空間を活かした美術館の中で、どんな作品世界を繰り広げているのか。本展覧会のために作り上げられた一期一会の展示プランをお見逃しなく!
〈青木野枝〉線や円を繋ぎ合わせ空間と一体化した鉄の彫刻
青木野枝は、鉄を素材として数々の作品を生み出してきた彫刻家です。工業用の鉄板を溶断して線や円を切り出し、そのパーツを展示空間に合わせて繋ぎ合わせて作品化するため、展示の度に組み立てと解体を繰り返します。
本展覧会では4トン車6台分ものパーツを運び入れて組み立てたということで、国の重要文化財でもある建造物を傷つけずに搬入するのがとにかく大変だったと作家が語るように、この場所でこれだけの青木野枝の作品が見られるのは奇跡的なことともいえます。
鉄にガラスがはめこまれている一連の作品では、通常は透明のガラスを使っているところを、今回は赤いガラスがはめこまれています。赤のガラスは作家が直感的に使いたいと感じ、2019年の長崎県美術館で初めて使われており、長崎でしか使わないと思っていたそうなのですが、今回、会場である旧朝香宮邸に何度も足を運んでプランを練るうちに、この空間に対する理解が深まり、かつての暮らしがリアルに感じられてきて、赤を再び使いたいと思い採用したとのこと。
展示する空間で組み立てて作家自身もそこで初めて目にするのを楽しみにしているという青木の作品は、いつも観るものに新鮮で、貴重な体験を伴って得られる感動をもたらします。
〈三嶋りつ惠〉光の輪郭を描き出す無色透明のガラス作品
三嶋りつ惠は、1989年からヴェネツィアに移住、2011年より京都にも住まいを構え、二拠点を往復しながら創作活動を続けています。素材としてはガラスを使うのですが、それはいつも無色透明で周囲に溶け込みながら光の輪郭を描き出します。三嶋は、作品のコンセプトは「光」とし、作品を通していつも光を感じて欲しいと話します。
本展覧会では旧朝香宮邸の大理石を使った階段やデコラティブな照明などからインスピレーションを受け、光の遊びと揺らぎが見る人の意識と作品との間で生まれるように、2024年に作成した新作から10年以上前に作成したものまでさまざまに配置しているとのこと。
本館大広間のインスタレーション《光の海》(2024)では、天井に設置された40個の照明と対話ができるようにと、同じく約40点の作品が並んでいます。あまり考えすぎずに、仲が良さそうなものを隣に並べていった、と作家が話すガラス作品たちは、この空間でどのような反響を生み出しているのか、ぜひじっくり感じ取ってもらいたい大作です。
「光」への特別な想いが込められた、一期一会の展覧会
会場では二人の作家のインタビュー動画が流れており(東京都庭園美術館の公式YouTubeでも配信中)、作品への取り組み方などが語られています。前述の通り、三嶋りつ惠の作品では光が大きな要素となっていますが、一方の青木野枝も火を使って鉄を溶断する際に、鉄が光を放って溶けて半透明になる瞬間があり、それは美しくそして楽しくて、再び鉄を溶断し続けられるのだというような話をしています。
二人の作家の「光」への特別な想いが、「そこに光が降りてくる」という展覧会のタイトルにも込められているように感じます。
東京都庭園美術館という空間に、この会期中にだけ存在し反響し合う作品たち。それは光の加減でもまた見え方が変わってくる性質のものなので、訪れた際には、まさに一期一会の体験となるに違いありません。ぜひ今観るべきオススメの展覧会です。
屋外にある三嶋りつ惠の作品もお見逃しなく!(よく目を凝らして庭の樹木に注目です!)