2023年10月公開の映画から、映画ライター渥美志保さんがおすすめの3作品をご紹介!
『ヨーロッパ新世紀』
グローバリズム時代に現れる人間の本性
舞台はルーマニアの寒村だが、住民にはハンガリー人、ドイツ人もいる。村人は過去のある事件以来「ロマ(移動生活を送る民族)」を排除した。だが音声の類似から国外では「ルーマニア人=ロマ」と誤解される。主人公マティアスは出稼ぎ先のドイツでその差別を経験した。ドイツ人の父を持つ彼は息子にドイツ語を学ばせるが、母親はロマで村では密かに差別されている。折しも村では外国人労働者へのヘイトが勃発。村民大集合の大激論の中、意図せず指名された彼はまるで部外者のように「意味がわからない」と口走る。「簡単だ、外国人を排除するってことさ」と答えるのはハンガリー人だ。
人種偏見、グローバリズムと格差社会、西欧と東欧の価値観、有害な男性性、SNSの暴走など、小さな欠片として描いてきた問題が複雑に絡み合いながら大噴出する村民大激論の場面(17分!)が圧巻だ。熊の毛皮を被り踊る祭りも、ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)の下に隠された人間の獣性を象徴し印象に残る。新世紀の社会の複雑さを思う。
『ヨーロッパ新世紀』
監督・脚本/クリスティアン・ムンジウ
出演/マリン・グリゴーレ、エディット・スターテ、マクリーナ・バルラデアヌほか
※10月14日(土)よりユーロスペースほかにて全国順次公開
https://rmn.lespros.co.jp/
『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』
「被害者らしくない」彼女の6年間の戦い
巨大原子力企業の組合代表を務めるモーリーンは、新任の社長が密かに中国と協定を結ぼうとしているという情報を得る。技術の流出防止と雇用を守るため内部告発した彼女は、数々の脅迫の末に自宅でレイプされ…。社会派サスペンスだが、焦点は原子力産業の闇ではなく、レイプされた彼女のその後だ。権力に事実を捻じ曲げられ、警察や医師から信じ難い二次加害があり、疑心暗鬼に陥った彼女が、どのように傷つけられ、どのように立ち向かっていったか。失望を繰り返しながらも淡々と戦い続けた6年を描く実話。
『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』
監督/ジャン=ポール・サロメ
出演/イザベル・ユペール、グレゴリー・ガドゥボア、フランソワ=グザヴィエ・ドゥメゾンほか
※10月20日(金)よりBunkamura ル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開
http://mk.onlyhearts.co.jp/
『シアター・キャンプ』
ヲタでなくても笑って泣けるミュージカル
ミュージカルスターを目指す子供たちを集めた、夏休みのキャンプ形式の学校「アディロンド・アクト」。ところが今夏の開校を目前に情熱的な校長ジョーンが倒れ昏睡状態に。演劇に無関心なジョーンのお調子者の息子トロイ、頭でっかちの講師エイモス、秘密を抱えた講師ダイアンなど個性的キャラたちと、子供たちの「ヲタ」ぶりに爆笑。実は火の車だった学校の一発逆転をかけたラストの舞台は、自分の居場所を探す全ての人の胸を熱くさせるはず。大ヒット作『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』スタッフによる制作。
『シアター・キャンプ』
監督/ニック・リーバーマン&モリー・ゴードン
出演/モリー・ゴードン、ベン・プラット、ノア・ガルヴィンほか
※10月6日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開
https://www.searchlightpictures.jp/movies/theatercamp