2023年6月末〜7月公開の映画から、映画ライター渥美志保さんがおすすめを3本セレクトしてご紹介!
『マルセル 靴をはいた小さな貝』
寂しがりでオトボケキャラの「巻貝」の日常と冒険
Airbnbで家族と生き別れたまま、こっそり暮らす小さな巻貝マルセルは、家に越してきたドキュメンタリー監督の映画に主演することに。ネット公開で一躍「時の人」となった彼の生活は一変し…。YouTubeで大ヒットした短編が長編映画化され、話題のレーベル「A24」が配給権を獲得。実写+ストップモーションアニメで作ったモキュメンタリー(疑似ドキュメンタリー)が描くのは、孤独と勇気のスタンダードな物語なのだが、ユーモアと愛嬌に溢れ、寂しがりでちょっとボケキャラのマルセルが何しろかわいすぎ。心和む1本。
『マルセル 靴をはいた小さな貝』
監督/ディーン・フライシャー・キャンプ
声の出演/ジェニー・スレイト、イザベラ・ロッセリーニほか
※6月30日(金)より新宿武蔵野館、渋谷ホワイト シネクイントほか全国公開
https://marcel-movie.asmik-ace.co.jp/
『サントメール ある被告』
幼い娘を殺した母親に何の罪があったのか?
「なぜ殺したかわからないが、自分に責任があるとは思えない」。幼い娘を殺し、裁判でそう言い放ったセネガル人の留学生ロランス。母親との確執を抱える妊娠中のラマは、裁判を傍聴しながら彼女を自分に重ね、母親になることを恐れるが……。意味不明な証言を繰り返すロランスは様々な差別や疎外を経験しているが、彼女の不敵さは「社会システムの被害者」の類型を拒絶する。だがラストは特に女性は泣かされてしまうだろう。遺伝子的に社会的に連鎖する母娘の言葉にならない愛憎を思わずにいられない。
『サントメール ある被告』
監督/アリス・ディオップ
出演/カイジ・カガメ、ガスラジー・マランダ、ロベール・カンタレラ
※7月14日(金)よりBunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほか全国順次公開
https://www.transformer.co.jp/m/saintomer/#
『古の王子と3つの花』
世界で最も美しい、キラキラしたフランスのアニメーション
史上最も美しい映画を作る作家のひとり、ミッシェル・オスロの新作は、3つの時代の3人の王子を描くオムニバスだ。古代エジプトが舞台の第一話は、恋人と結婚するために大国の王を目指す小国の王子の物語。第二話は中世フランスを舞台に、領主である父に処刑を命じられながら生き延び、義賊となる息子の運命を描く。第三話は国を追放された王子が、異国の「薔薇の王女」にユニークな方法で近づくラブコメディである。
物語も悪くはないが、心奪われるのはただただ美しい映像だ。エジプトの壁画そのままに描かれた第一話、第二話は中世の森の暗さを影絵のスタイルで表現し、第三話では一転してトルコの王宮のカラフルさとキラキラに目がくらむ。実写と見まごう3Dアニメの進歩も、この2D作品の前では何の意味もないものに思えてしまう。映画館の暗闇の中、大画面でその映像に思う存分浸る幸せを、想像するだけでうっとりとしてしまうのだ。
『古の王子と3つの花』
監督・脚本/ミッシェル・オスロ
声の出演/オスカル・ルサージュ、クレール・ドゥ・ラリュドゥカン、アイサ・マイガほか
※7月21日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
https://child-film.com/inishie/#