2023年4月末〜5月中旬公開の映画から、映画ライター渥美志保さんがおすすめを3本セレクトしてご紹介!
難しくて解けない問題は、明日また解いてみればいい
ジウは貧しい母子家庭に生まれた高校生だ。特例入学した名門私立校では、危機的なまでに数学で落ちこぼれている。そんななかで出会ったのが、彼の宿題をなぜか全問正解した脱北者の警備員ハクソンである。映画はこの二人が放課後にこっそりと行う数学の授業を描く。クラシックな夜の校舎に、授業料代わりのイチゴ牛乳、円周率が奏でる旋律……おっさんと少年の組み合わせを補って余りある美しい雰囲気が映画全体を包んでいる。
事故で父を失ったジウを、ハクソンは「幸せに背を向け不幸に浸る自己憐憫」とくさす。だがそれは北の天才数学者だったハクソン自身のことだ。「正解を探すな、答えを見つけろ」「公式を覚えて解くだけでは、数学と仲良くなれない」「難しくて解けない問題は、明日また解いてみればいい」とジウを導きながら、息を吹き返してゆくのはハクソン自身である。やがて身を投げ出して相手を守る二人は、疑似父子でも師弟でもなく、友情によって結ばれている。年齢を超えた互いへの愛情と敬意に、ラストには胸がいっぱいになる。
『不思議の国の数学者』
監督・脚本/パク・ドンフン
出演/チェ・ミンシク、キム・ドンフィ、パク・ビョンウン、パク・ヘジュン、チョ・ユンソほか
4月28日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開
https://klockworx-asia.com/fushigi/
一匹狼シェフが率いる移民少年料理チーム
頑固さゆえに一流レストランを飛び出したシェフのカティの次の仕事は、移民少年の自立支援施設の食事担当。食材も設備も人も不足するなか、それでも「質より量」に我慢がならないカティは少年たちを助手に使うことに。料理を通じてチームとなった彼らの生活は生き生きと回り出すが……。
ど派手ファッションでけんかっ早い一匹狼カティが、ありがちな「母親」の役割を担わず、頼れるボスとして少年たちを率いるのがいい。人との触れ合いを経て当初のこだわりが別のものに昇華する物語も魅力的。ラストの大作戦も痛快。
『ウィ、シェフ!』
監督/ルイ=ジュリアン・プティ
出演/オドレイ・ラミー、フランソワ・クリュゼほか
5月5日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
https://ouichef-movie.com/
ヘイトクライムの根本にあるもの
教会に集まった「白人至上主義」の女性グループは、遭遇したアジア系の姉妹に難癖をつけ……。ヘイトが群集心理によって制御不能の惨劇にいたる90分はなんと1カットで、緊張感と恐怖の現場に投げ込まれるような感じ。アメリカ女性の「こんまり叩き」にアジアンヘイトが関係しているという言説をそのまま見るようだが、映画は攻撃する側も強固な「ジェンダー差別」が刷り込まれていることを描く。正直かなりキツい映画だが、主人公が差別の再生産者たる幼稚園教諭であることなど、単なるスリラーとは異なる恐怖がある。
『ソフト/クワイエット』
監督・脚本/ベス・デ・アラウージョ
出演/ステファニー・エステス、オリヴィア・ルッカルディ、エレノア・ピエンタ、メリッサ・パウロ、シシー・リー、ジョン・ビーバースほか
5月19日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国公開
https://soft-quiet.com/