2023年3月末〜4月中旬公開の映画から、映画ライター渥美志保さんがおすすめを3本セレクトしてご紹介!
頼るものは互いしかない、固唾をのんで見守る移民の姉弟の行く末は
密航船の中で出会い、ともにアフリカからベルギーにやってきた少女ロキタと少年トリは、姉弟を偽って互いを支え合いながら暮らしている。ロキタは故国の家族に仕送りするために薬物売買を手伝っているが、その金も密航ブローカーに奪われることもしばしばだ。正規の仕事に就くためにはビザが必要だが、難民申請をしてもロキタだけが認められない。
家族に仕送りするために、偽造ビザを手に入れるために、一緒にいるために……幼い姉弟がどんどんと深みにはまってゆくのは、あまりに幼く、頼るものがないどころか食い物にする人間ばかりで、解決策と思える方法のその先に、何が待っているかをわかっていないがゆえだ。観客は、悪い方へ、悪い方へと危なっかしく向かっていく二人を固唾をのんで見守るしかない。
ベルギーの名監督ダルデンヌ兄弟は、感傷を排し――だか静かに怒りながら、徹底した叙事によってこれを見せる。社会に搾取され見放された二人の結末は「所詮は移民問題、対岸の火事」というふうには、まったくもって思えない。
『トリとロキタ』
監督・脚本/ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演/パブロ・シルズ、ジョエリー・ムブンドゥ、アウバン・ウカイほか
3月31日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほか全国公開
https://bitters.co.jp/tori_lokita/
生きづらい大学生はなぜ「ぬいぐるみとしゃべる」のか?
大学の入学式で友人になった七森と麦戸。内気な二人が一緒に入ったのは「ぬいぐるみに、しんどいことや辛いことを聞いてもらう」サークルだった。多様性を叫びながらちっとも多様でない世の中にあって、生きづらさを抱える人物たちは、「優しさ」ゆえに他者に言うことができず、それゆえに閉じこもるしかない。ぬいぐるみ相手にしゃべることは、文章を書くことにも似ている。誰にも邪魔されない言語化は、自分を知ることであると同時に、自分が「誰かに聞いてもらいたい」と気づくことでもあるようにも思える。
『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』
監督/金子由里奈
出演/細田佳央太、駒井蓮、新⾕ゆづみほか
4月14日(金)新宿武蔵野館、渋谷 ホワイト シネクイントほか全国公開
https://nuishabe-movie.com/
何かを選べば、何かを捨てることになる時代
男娼フェイを暴行した客に仕返しした恋人シャオレイ。だが自分が逮捕されることを恐れたフェイは、シャオレイを見捨てて逃げてしまう。数年後、男娼としてリッチな生活を送るフェイのもとに、「自分も稼ぎたい」と同郷の従弟ロンが転がり込み……。フェイが保守的な故郷で経験するあれこれが、「都会で働く独身30代の正月の帰省」に酷似で戦慄。都市と田舎の生活のみならず、価値観が二極化する時代には、何かを選べば何かを捨てることになる。ならば自分は何のために何を捨てるのか。幸せはそこにある。
『マネーボーイズ』
監督・脚本/C.B. Yi
出演/クー・チェンドン、クロエ・マーヤン、バイ・ユーファン、リン・ジェーシーほか
4月14日(金)シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国公開
https://hark3.com/archives/1872