2023年1月現在〜2023年2月中旬公開のおすすめ映画を映画ライター渥美志保さんが3つご紹介!
逃げ続けるクズ男が最後に手に入れたものは
自堕落なフリーターの裕一は、同棲中の恋人・里美から浮気を追及されて答えに窮すると、そのまま荷物をまとめて衝動的に出奔。幼馴染の伸二、バイトの先輩・田村、大学の後輩と渡り歩いて、ついには北海道の実家からも逃げ、かつて家族から逃げた父・浩二と10年ぶりに再会するのだが……。人間関係の8割は「面倒」で、それを受け入れた人にのみ残り2割の「喜び」がついてくるという現実を知るまでの、主人公の心の旅を描く。凡百の映画の「ラストシーン」で、現実を受け入れた裕一の表情に、観客は何を見るだろうか。
『そして僕は途方に暮れる』
監督・脚本/三浦大輔
出演/藤ヶ谷太輔、前田敦子、中尾明慶ほか
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中
https://happinet-phantom.com/soshiboku/
埋められない分断は、なぜ生まれるのか?
誰かから突然絶交されれば、理由を知りたいのは当然だ。だが原因は「された方」ではなく「した方」にあるし、その目的は関係の改善でなく「絶交」そのものであることが多い。つまり関係は続きようがない。だが物語の中の「された方」=パードリックは、愚かなまでの善良さで関係修復に躍起になり、それに苛立ちを募らせた「した方」=コルムはある恐ろしい宣言をする。
イニシェリン島の対岸はアイルランド本土で、舞台となった1923年当時は隣人同士が戦う内戦の真っ只中、映画の中でもたびたび上がる火の手が見える。イニシェリン島で起こっているのは、それと全く同じことだ。大した理由もなく始まった諍いは、愚かさと頑固さによって深刻化してゆき、それを噂し批判する人々は、不満と退屈に満ちている。実のところ、あほくさ!程度の軽さで、争いをやめることも、そんな日常から出ていくことも、いつだって可能なのだ。だが誰も出ていこうとはしないのだ。ラストシーンでは、「死神」の姿がスクリーンを真っ二つに裂く。人間は何を求めているのだろうか。
『イニシェリン島の精霊』
監督・脚本/マーティン・マクドナー
出演/コリン・ファレル、ブレンダン・グリーソン、ケリー・コンドン、バリー・コーガンほか
2023年1月27日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
https://www.searchlightpictures.jp/movies/bansheesofinisherin
覗き込めば命取りになる、恋愛の深淵
山中で起きた変死事件を捜査するエリート刑事ヘジュンは、被害者の若い妻ソレと出会い、夫殺しの容疑者と知りながら惹かれてゆく。『お嬢さん』のパク・チャヌク監督の6年ぶりの新作は、命取りになりかねない相手と知りながら想いを断ち切ることができない男女の関係を描く――と書くとロマンティックに聞こえてしまうのだが、この奇妙さは何だろう。美しくも残忍なソレの魅力に絡め取られてゆくヘジュンは、四角四面なのにどこか変態的で、喜劇と悲劇のあわいですべてを見失ってゆく。恋愛の深淵はどこか恐ろしい。
『別れる決心』
監督・脚本/パク・チャヌク
出演/パク・ヘイル、タン・ウェイ、イ・ジョンヒョンほか
2023年2月17日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
https://happinet-phantom.com/wakare-movie/