11月後半〜12月前半公開のおすすめ映画を映画ライター渥美志保さんが3つご紹介!
幼い弟のための姉の自己犠牲は美しいのか?
「一人っ子」政策は、人口爆発を恐れた中国で1979~2014年まで行われていた政策だ。父権主義的な考えから多くの夫婦は男児を望むが、許される子供は一人だけ。第一子に「なんらかの問題」がある時だけ、二人目が許される。主人公アン・ランの弟ズーハンは、男児を望む両親が「長女は脚が不自由」と虚偽を申し立てたのちに得た息子だ。親の援助なしで進学し看護師になった彼女は、今は本来の目標だった医師になるため北京の大学院を目指している。その矢先に両親が事故死し、故郷に残された「ほぼ他人」の6歳の弟を背負いこむハメになる。
見どころは二人のバトルだ。「ちっちゃい怪獣」さながらの6歳児ズーハンを、頑ななアン・ランはまったく手加減せず甘やかさない。もちろん「親に愛されなかった者」と「幼くして親を失った者」はその寂しさで結ばれてゆくが、絆は姉弟のものでなく対等な人間同士のそれに思える。よくある「姉の自己犠牲」で泣かせることはしない。ラストに心が震えるのは、むしろその価値観に疑問を投げかけるからこそなのだ。
『シスター 夏のわかれ道』
監督/イン・ルオシン
出演/チャン・ツィフォン、シャオ・ヤン、ジュー・ユエンユエン、ダレン・キムほか
2022年11月25日(金) 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国公開
https://movies.shochiku.co.jp/sister/
目を澄ませて観る、岸井ゆきのの圧倒的表現力
作品はろう者でプロボクサーのケイコの日常を描く。当然ながらケイコがボクシングに打ち込む理由は語られない。その一方で、周囲が「このくらいでいいんじゃないか」と考える理由はいくらでもある。だがケイコは決してやめられない。何かに情熱を注ぐ人にとっての普遍的な問いを、映画は言葉を使わずに描いてゆく。何しろ主演の岸井ゆきのが圧倒的だ。ボクシングをする姿はもとより、目線、背中、手話、身体から発散する空気のすべてが、ケイコの内面の格闘と感情を物語る。見逃したくない観客は「目を澄ませて」画面を観なければいけない。
『ケイコ 目を澄ませて』
監督/三宅唱
出演/岸井ゆきの、三浦友和、三浦誠己、松浦慎一郎ほか
2022年12月16日(金)テアトル新宿ほか全国公開
https://happinet-phantom.com/keiko-movie/
映画館でしか味わえないリアルな異世界
惑星パンドラを舞台に、先住民ナヴィと侵略者=人類の闘いを描いた前作から10年後の世界を描く。住み慣れた森を追われ、海辺の部族に助けを求めたジェイクとネイティリは、家族を作り幸せに暮らしていたが、ここにも侵略の魔の手が……。前作からさらに進化した映像技術が実現するのは、光が揺らめく水中世界の美しさ。最新の3D技術が実現する立体感とクリアな映像はあまりにリアルで、見るというより惑星パンドラの世界に迷い込んだような気持ちに。ストリーミングの時代に、映画館でしか味わえないものを味わわせてくれる作品。
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
監督/ジェームズ・キャメロン
出演/ゾーイ・サルダナ、サム・ワーシントン、シガーニー・ウィーバーほか
2022年12月16日(金)全国公開
https://www.20thcenturystudios.jp/movies/avatar2