映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』をご紹介。
「同じ毎日の繰り返し」はタイムループかも
「タイムループもの」って、つまり「同じ1日を延々と繰り返す」というタイプの映画で、古くは『恋はデ・ジャ・ブ』とか『ミッション8ミニッツ』とか『パーム・スプリングス』とか、面白い作品がすごーく多いジャンルです。日本ではあんまり作られないな~と思ってたのですが、ついにめちゃめちゃ面白いのがきました! 小さい広告代理店で突如始まった全員タイムループというお話です。
弱小広告代理店で働く吉川は「月曜までに5案」という発注主の無茶ぶりのもと、週末も会社に泊まり込んで新商品「味噌炭酸タブレット」の広告案を考え、月曜の朝を迎えます。同じように泊まり込んで「今日金曜日?」とかいいながら目覚めたほかの社員たち、デスク職の女性と社長が出社し、窓にバン!とハトがぶつかってーーその時、後輩の2人が「吉川さん、僕らタイムループしてます」と言い出します。アホなこと言い出した後輩を黙殺し、発注主に翻弄されながら1週間。いちいち先に起こることを知ってる後輩たちを怪訝に思いながら1週間。「夢だと思って忘れちゃうんです! だからとりあえずは『鳩』を憶えてください!」という後輩の言葉に従い、明けた月曜日。鳩がバン!とぶつかって、吉川はやっとタイムループを信じるようになり、タイムループを終了させようと奮闘し始めます。
コミカルなテンポにハマる!
映画の面白さは何といってもテンポの良さ。ループする1週間を「月曜」「火曜」と曜日ごとに画面に大書しながらポンポンポンと見せてゆきます。実のところその内容は全部同じなんだけど、編集のテンポでぜんぜんたるむことがないし、間には広告マンたちのマニアな分析とか、軽薄ぶりがさしはさまれ、いちいち笑っちゃう。
「タイムループの原因は社長にある」と推測するも、「社長は下っぱの言うことは信じない」という判断のもと、下から上へと一人ずつ説得して社長を落とすというのも、ものすごく日本的。最終的に広告マンのプレゼンまんま、パワーポイントみたいなもので社長にプレゼンしながら説得するんですが、それもループの間に何十回もやっているから、社長が次に何を言うか全部知ってるんですね。信じられずに冗談めかす社長に対し、「冗談じゃないんで」というテンションで次々とボケをつぶす、そのやりとりの絶妙のテンポに、私は大爆笑してしまいました。でも社長が信じてからも、実はまだまだ恐ろしいほどの難関があるのです(笑)。
日本特有の社畜コメディ?
この映画がすごくうまいのは、ループが「1週間」であること。土日のループならずっと働かないし、ウィークデーのループなら休みが来ないけれど、1週間のループって普通の日常と大して変わらないんですね。さらに登場人物たちは「何かの拍子で、いつループが終わるかわからない」と考え、日々の仕事にも手を抜くことができません。そこから「代り映えしない毎日は、ループと同じ」とか「実は前に進むのが怖いのかも」という、日本独特の視点が見えてくる、新しいループ物になっていると思います。もし私だったら、結局リセットされるなら、1週間まるまる旅行に行っちゃうけどな~(笑)。
『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』
監督/竹林亮
出演/円井わん、マキタスポーツほか
https://mondays-cinema.com/
2022年10月14日(金)東京・渋谷シネクイント、大阪・TOHOシネマズ梅田、名古屋・センチュリーシネマ先行公開、10月28日(金)全国順次公開
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