絶対の存在感とインパクトで、見る者の記憶に残る演技をする俳優の古田新太さん。約40年近く役者として舞台で活躍し、9月からも劇団☆新感線の『薔薇とサムライ2-海賊女王の帰還-』の公演が控えている。古田さんが人と向き合うために大事にしていることとは?
コロナ禍、初対面の距離を縮めることが難しくなった
どうしようもない荒くれ者を演じたかと思うと、思わずクスっと笑ってしまうコミカルな面が現れたり、そうかと思うとどうしようもない切ない思いを爆発させ、見ている者の心を震わせる…。唯一無二の存在感とインパクトを残す俳優の古田新太さん。
現在は、9月から富山を皮切りに全国公演が始まる劇団☆新感線の『薔薇とサムライ2-海賊女王の帰還-』の稽古の真っ最中だ。天海祐希さん扮する海賊アンヌが古田新太さん演じる石川五右衛門とともに大暴れするという作品で、なんと12年ぶりの第2弾。出演者、話題性からも超人気カードな舞台だ。
「今回は、コロナ禍の鬱屈とした気分を払拭した舞台にしたいという気持ちもあって、とにかくハチャメチャに楽しい感じの舞台になると思います。生バンドも入るので、ライヴ感も楽しめると思うし。オイラと天海さんは12年前と同じ役ですけど、今回は世代交代についても描いていて、神尾(楓珠)や(石田)ニコルといった若手で劇団☆新感線の舞台に初めて参加する人も多い。これはすごく楽しみですね。神尾とは稽古前にバラエティで共演したけど、ニコルちゃんとは初めて。初舞台は緊張することも多いから、ポスター撮りの日に『友達になんて呼ばれてるの?』とかこっちから話しかけてみたりしました。
以前は稽古終わったあとに、みんなで食事や飲みに行っていろんな話をして…みたいなことが普通に行われてたけど、コロナでそれが難しくなってしまった。感染拡大で舞台が飛んでしまうこともあるので、みんなとても気をつけているし、ただコロナってやつは気をつけるほど人との距離が遠くなってしまう。なんとも歯がゆいですよね」
古田さんは、必ずしも飲みに行くことが必要だと言っているわけではないという。ただ、「余白」の時間によって生まれるものがなくなってきていると感じていると話す。
「すでに出来上がっている関係性であれば、必要なことがあれば電話でも話すことはできるし、どんな形であれ伝えることができる。それよりも初対面の相手との距離を縮めるのが難しくなったと思うんです。これはコロナだけでなく、喫煙もひとつあると思うんですね。舞台であれば稽古の合間、ドラマや映画であれば撮影の合間に、喫煙所って距離感を縮める大きな役割を持っていたと思うんです。
みんなそこですごい演技論みたいなものを話していると思いがちですが、そんな話はほとんどしない。だって考えてもみてください。稽古の合間、一息つきたくてタバコを吸いに行ってるのに、そこで同じテンションだったら嫌じゃないですか(笑)。そこでは特別仕事の話をするわけでもなく、無駄話をしているだけなんだけど、そこにその人の素の部分やこいつ面白いな、って部分が見えてくる。人間の付き合いってこういう余白の部分が大事だと思うんです」
セリフにしなくても煙草という小道具がもたらす力
以前は、稽古の合間の休憩になると喫煙しながらワイワイと話す機会が多かった。でも、今は稽古場でも喫煙スペースが決まっていて、コロナ禍はさらに密を避けるために、喫煙所の人数制限も求められてしまう。
「もちろん、世の中にはタバコが苦手な人もいる。酒を飲まないと人との関係が成り立たないなんておかしいと言う人がいるのもわかります。そういった人たちに、その形を強制するつもりはありません。でも、だからってそれは昭和のスタイルだ、とひとくくりにしてなくしてしまう社会も違うかなと。
例えばタバコは、物語を構築する上でも重要な小道具だったわけです。新聞記者がタバコの煙が充満する部屋の中で執筆していたら、それだけで困難な問題を報道しようと奮闘している雰囲気がにじみ出てくる。こぎれいな部屋でノートパソコンを打っているだけでは見えないものを想像させてくれる力っていうんですかね。
咥えタバコひとつでも、その人の気持ちみたいなものが出るんですけど、今コンプライアンスでなかなかこういった小道具も使用できなくなっている。その分、セリフで説明したりすると、なんか違うなぁと思うわけです。オイラは愛煙家なんで、煙草がない人生なんて考えられないのでそう思うのかもしれませんが(笑)…」
時代によって社会のシステムが変化するのは仕方がない部分もあるが、いいかダメのどちらかの極論に進みがちな最近の思考には違和感を覚えると古田さんは言う。
「役者なんてそもそもはみ出している部分が面白いところもあるわけで。それがいろんなルールに縛られてしまっていいのかな、と思う部分はあります。もちろん、喫煙も飲酒も人に迷惑をかけてはいけないけれど、そうでないのであれば、自己判断で自由でいいと思うんですよね。
でも、一番厄介なのが、以前吸っていたのに禁煙した人です。そういう人ほどやめろやめろと言う(笑)。誰とは言いませんが、本当に困ったものです(笑)」
古田新太(ふるたあらた)
1965年12月3日生まれ、兵庫県出身。「劇団☆新感線」の看板役者である。近年では『KAPPEI』『空白』などの映画に出演。テレビドラマでは、『俺の可愛いはもうすぐ消費期限!?』『SUPER RICH』などに出演。9月9日、富山・オーバード・ホールでの公演を皮切りに、12月6日の東京・新橋演舞場まで2022年劇団☆新感線42周年興行・秋公演SHINKANSEN☆RX『薔薇とサムライ2-海賊女王の帰還-』で石川五右衛門を演じる。