映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『三姉妹』をご紹介。
本当の気持ちにフタをして生きる代償とは
最近では韓国ドラマが流行っていて、お気に入りの俳優がいる人も多いと思います。以前はヒョンビンだったけど最近はチョン・ヘイン……と鞍替えするたびに「この俳優さん、あの作品にも出てた!」という名わき役がいたりしますよね。キム・ソニョンはまさにそういう俳優さん(韓国では女性の俳優を「女優」と呼びません)。『愛の不時着』では北朝鮮の村の風紀委員みたいな役、『椿の花咲くころ』ではヒロインをいじめる町内会の派手派手おばさん、その他にもとにかくいろんな作品に出ています。この『三人姉妹』は、そんな彼女を含めた三人の女性が、なんだか変な姉妹を演じた作品。彼女は長女を演じています。
映画は最初っから三姉妹の、なんだか変な感じをこれでもかと見せてゆきます。別れた夫の借金を背負う長女ヒスクは、反抗期の不良娘にまるでカツアゲされるみたいに小遣いをむしり取られ、それでいながら奇妙にヘラヘラっとしています。次女のミヨンは熱心なキリスト教徒で、教会では聖歌隊の指揮者をやっています。夫はエリートで、どうやら家を新築したらしく、身なりもいつもきちんとしている良妻賢母という感じ。この次女に酒を飲んではひっきりなしに電話をかけてくるのが、書けない劇作家の三女のミオク。子持ちのバツイチ男の後妻なのですが、書けない!と酒を飲んでは、夫と息子をなぎ倒す勢いで暴れます。
映画はこの三姉妹の日常、その不幸っぷりをえがいているのに、驚くほど笑わせます。脚本もいいのですが、何しろ三人の演技がすごい。ヘラヘラ笑いで次から次へと襲い掛かるド級の不幸を骨抜きにしてしまう長女。周囲があっけにとられるのもまったく気にせず、大きな身体(実は韓国のトップモデル)でまるで5歳の駄々っ子みたいな(当事者じゃなければ爆笑の)わがままを繰り出し続ける三女、その三女の「なぜ今その話?!」という電話攻撃をいやいやながらなぜかとことん付き合ってしまう、完璧に見える分だけ闇が深い次女。そしてなんなのこのヘンテコ三姉妹!と思い始めたところで、三人の過去が見えてくるのです。姉妹はその過去ゆえに決して互いを捨てることができません。
男性優位社会における家父長制度の家族観(父親が絶対権力者)は、韓国に今も根深く残っています。でもそこで負った傷のみを見つめる人生は辛すぎる。どうにか生きていく三姉妹と家族たちの姿は、そんな世界に小さな光明を灯そうとしているようにも思えます。
『三姉妹』
監督・脚本/イ・スンウォン
出演/ムン・ソリ、キム・ソニョン、チャン・ユンジュ、チョ・ハンチョルほか
http://www.zaziefilms.com/threesisters/
6月17日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!
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