映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『余命10年』をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました!
ベタな「余命もの」とは違う、心に沁みるラスト
小松菜奈演じる主人公の茉莉(まつり)は、10年後の生存率0%という不治の病を発症した20代女子。大学を中退、働くこともできず、「ただ生きているだけ」の日々を送っています。坂口健太郎演じる和人は、親と上手くいかずに家を飛び出したものの、東京でひとりで生きていくことにくじけ、引きこもって無為な日々を送る青年。
高校の同級生である二人はクラス会で再会、生きられるのに懸命に生きようとしない甘ったれた和人に、茉莉がキレたことをきっかけに仲良くなり、やがて恋愛関係に・・・。
と、こういった感じのいわゆる「余命モノ」を、私は基本的にスルーしています。というのも、展開が完璧に読めてしまうから。たいていは女子が余命1年くらいで、残されたわずかな命は恋によって輝きだし、「このまま死んでも構わない」と突っ走り、ときには「死にたくない」と泣きすがったりして、でもやっぱり死は避けられず、残された男子は「君がいないと生きていけない」と号泣・・・みたいな。
「いや何年もすれば、平気で生きていくでしょ、君は」って言いたくなっちゃうんですね。「平気で生きていくなんてひどい!」って言いたいわけじゃないんです。それが分かり切っているから、そういうわざとらしく安っぽいドラマチックさに、ひいてしまうんですね・・・。
この作品の良さは、そういういわゆる「余命モノ」にありがちなパターンになっていないからです。それは茉莉の「余命」が10年と、結構長いから。短いからこそ燃え上がる恋と輝く人生とか、激情の赴くままに、とかだけじゃもたない、つい考えちゃう時間的余裕があるわけです。
そんなわけで、物語は「一緒にいたいのにいられない、辛い」みたいな単純なものではなく、恋愛を通じて二人が成長し、成長したからこそ最後に到達できた、ものすごく大きな愛情を描くことができている気がします。
とはいうものの、やっぱり恋愛によって輝く日常っていうのは描かれていて、これがものすごく美しいのもいいんですね。茉莉が和人と過ごした数年は、花も海も空も日差しも何もかもがカラフルで、その映像はめくるめく美しさ。二人が恋に落ちた瞬間の桜吹雪は、特に印象的です。
そして、もちろん茉莉は最後に死んでいくのですが、見終わった後は不思議なほどに悲しくありません。茉莉は残された時間を一生懸命に生きた、悔いはきっとあるけれど、できるかぎりのことをした、と分かるから。むしろすがすがしいくらい。小松菜奈と坂口健太郎の演技もすごくいいです。
『余命10年』
監督/藤井道人
出演/小松菜奈、坂口健太郎、山田裕貴、奈緒、井口理ほか
(c)2022 映画「余命10年」製作委員会
https://wwws.warnerbros.co.jp/yomei10-movie/index.html
※3月4日(金)全国公開
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