映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『パーフェクト・ノーマル・ファミリー』をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました!
ある日、「女性」として生き始めたパパ
もし私が小学5年生で、ある日突然父親から「ママと離婚する。離婚後は女性として人生を送りたい」と言われたとしたら、頭が「ぱーん!」となって、しばらく何が何だかわからなくなっちゃうんじゃないかと思います。この物語は、まさにそういう事態に陥った11歳の女の子と、彼女の家族のお話です。
エマは11歳のサッカー少女。サッカーを始めたのは父親の影響で、彼女のサッカーの試合の送り迎えも、お父さんがやっています。そんなある日、冒頭の事態がやってきます。お父さんはすでにお医者さんに相談もしていて「このままの生活は精神的にもう無理」という状況。
大混乱のエマをよそに、離婚、家族カウンセリング、タイでの性転換手術・・・と事態は急ピッチで進んでいきます。そして手術を終え、女性名アウネーテに改名した父親との生活が始まるのですが、姉カロがすんなり受け入れてゆく一方で、思春期で多感な時期のエマはどうしても上手く受け入れられません。
すんなり受け入れられるお姉ちゃんのほうがすごい気がしないでもないですが、それはさておき。エマはやっぱりまだ子供なんですね。だから例えば、アウネーテが奇異な目で見られたり、友達に噂されたりすることはもとより、「お母さん」と勘違いされたアウネーテがそれをそのままにすることなんかにもモヤモヤします。
とはいえ「いいえ、私は父親なんですよ、実は性転換手術で…」と初対面の人に説明するほうがなんか変だし!と思ったりもしますよね。でもふと思うのは、一般的な「女性」に見えるタイプのアウネーテだから「お母さんに間違われる」という、勘違いとしては比較的穏便なところに落ち着いているだけで、観客のこういう反応すらも何かしらの偏見をあぶりだしているのかもしれません。
作品には「ジェンダー」を考えさせる要素がいろいろに含まれています。例えば、エマはサッカー少女でピンク色が嫌い。アウネーテはそんなエマにピンク色のスカーフを買ってくるし、女性になったとたんに「サッカーなんて興味ない」なんて言い出して、父親の影響でサッカーを始めたエマは大ショックを受けたりもします。
そうそう、映画では最初と最後がサッカーにまつわるエピソードになっています。エマは負けん気が強く、試合は勝たなきゃ意味がないし、何をやっても「負けてる自分」にイライラしてしまいがち。でも世の中には、そうじゃない価値もある。映画は、彼女がそれを理解していく物語、とも言えるかもしれません。
『パーフェクト・ノーマル・ファミリー』
監督・脚本/マルー・ライマン
出演/カヤ・トフト・ローホルト、ミケル・ボー・フルスゴーほか
(c)2019 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
https://pnf.espace-sarou.com/
※12月24日(金)新宿シネマカリテほか全国順次公開
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