映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『偶然と想像』をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました!
「もしあの人と再会したらどうするか」を想像する
大ヒット中の映画『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督は、「セリフと会話劇の名手」として知られる人です。同作品では、作品の後半にある西島秀俊と岡田将生のやりとりがすごく話題になりましたが、私個人がいつも感じるのは「女性のセリフがすごくうまいなあ」ということ。ここでいう「女性のセリフ」とは記号化された「女性らしさ」という意味ではなく、「こういう女性いるな~」と思わせるリアルなセリフという意味。ベルリン国際映画祭で賞を獲得した本作は、それを堪能する映画です。
映画は3本の短編オムニバスなのですが、主人公はどれも女性。最初の1話目は、ちょっとエキセントリックな若いモデルの女の子が主人公で、延々と続くのは「恋バナ」。親友のスタイリストが最近出会ったちょっと素敵な男性と過ごした「ある夜」のことを語るのですが、その男性がどんなタイプだったのかとか、二人が好き合っていることは明白なのに、なぜ寝なかったのかとか、濱口監督って実は女子? それともカフェで聞き耳立ててるとか?と言いたくなるようなリアルさです。
誰にでも「人生の中でやり残したこと」はあるものですよね。3つの物語の主人公たちはみんな何かしらそういう後悔を抱えていて、それを挽回できそうな「偶然の出会い」を経験するわけですが、ここにさまざまな「想像」を絡めてくるのがこの作品のすごいところ。
3本の物語は、「これは現実ではなく、主人公の想像だったんだ」だったり、「この後に何が起こるか、想像できますよね」だったり、「想像してたから、そうなっちゃったんだな」だったりで、本当に小さな話なのに、スリリングだったり、え?!と驚かされたり、つい笑っちゃったり。アイデア満載で、ヨーロッパの映画祭で次々と賞を獲得したのもすごく納得です。
どの話もすごく面白いのですが、私の一番のお気に入りは「旧友との再会」を描いた3話目です。『ドライブ・マイ・カー』もそうですが、濱口監督の作品は「演じている」キャラクターが登場することが多いのですが、この3話目はまさにそれ。人間は常に何かしらの役割を演じながら生きていますが、たとえ演技であっても自分の真実に触れてしまうことがあるもの。その瞬間をこんなふうに切り取って、爽やかに感動させちゃうなんて、ほんとにすごい監督。『ドライブ・マイ・カー』とあわせて、ぜひこちらもご覧くださいね。
『偶然と想像』
監督・脚本/濱口竜介
出演/古川琴音、中島歩、玄理、渋川清彦、森郁月ほか
(c)2021 NEOPA/fictive
https://guzen-sozo.incline.life/
※12月17日(金)Bunkamuraル・シネマほか全国公開
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