映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『劇場版「きのう何食べた?」』をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました!
シロさん&ケンジが楽しげに食べる姿に、心がほっこり温まる
人気のドラマ「昨日何食べた?」の劇場版ということで、シロさん&ケンジにまた会える!とうれしくなっちゃう人もいると思います。今回の始まりは、シロさんがケンジの誕生日にプレゼントした京都旅行から。
旅行嫌いだったシロさんからのうれしい申し出に、ケンジは大はしゃぎ。ライトアップされた紅葉あり、大好きな2時間ドラマのロケ地あり、高級旅館あり、もちろん美味しいものだらけで大満足。でもかつて「ゲイバレするから」と決して旅行してくれなかったシロさんが…と思うと、このシチュエーションはあまりに出来過ぎで、だんだんと不安になってきます。
ケンジおなじみの「深読みしすぎ」で笑わせるオープニングから、お馴染みの面々が次々に登場。ジルベールはいつもどおりわがまま放題で小日向さんを振り回し、なかむらやのお姉さんは無言のまま視線で特売品を教えてくれ、シロさんのお母さんは割烹着で料理を作り、ケンジの美容院では、店長が相変わらずしょーもない浮気にうつつを抜かしていますが、それぞれにちょっとずつ変わったところもあるようです。
その小さなエピソードに、さまざまなことをなんとなーく感じながら、シロさんとケンジにも少しずつ変化が起こっていきます。一言で言えば、以前以上に2人が「家族」になっていくという感じでしょうか。実は京都での2人のやりとりは、前フリとして後半にすごく効いてきます。笑っちゃいながらも、ほっこりと心が温まります。
私は断然ケンジ派なんですが、このふたりの関係を大きな包容力で包み込んでいるのはやっぱりケンジなんだよな~と感じました。ドラマの最後では、驚くべき変化も見せてくれます。
シロさんが弁護を担当する事件で、ほんの少しだけ「社会的弱者」についても触れていることにも好感を持ちました。作品ではふたりが性的マイノリティであることについて、政治的、社会的な側面から取り上げることはしませんが、彼らもまた社会における少数派、弱者でもあります。被疑者であるホームレスの男性の「弱者が声を上げても誰も聞いてくれるはずがない」という言葉は、少数派であるがゆえになかなか認められない同性婚に対する、制作側のメッセージでもあるように、私には思えました。
ドラマ同様に楽しみなのは、登場するお料理の数々。今回の映画では「アクアパッツァ」「黒豆」「厚揚げのねぎ味噌焼き」が気になって、映画を見ながら思わずレシピをメモってしまいました。料理が本当に美味しそうに見えるのはやっぱり2人が美味しそうに食べるから。見終わったあとは、大切な人と一緒に美味しい御飯が食べたくなるに違いありません。
『劇場版「きのう何食べた?」』
監督/中江和仁
出演/西島秀俊、内野聖陽、山本耕史、磯村勇斗、マキタスポーツ、松村北斗(SixTONES)、田中美佐子(友情出演)ほか
(c)2021 劇場版「きのう何食べた?」製作委員会 ©よしながふみ/講談社
https://kinounanitabeta-movie.jp/
※11月3日(水・祝)全国東宝系にて公開
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