映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『恋の病 〜潔癖なふたりのビフォーアフター〜』をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました!
出会った頃は「運命の人」と思っていたのに…
重度の潔癖症でほぼ引きこもりの生活を送る青年ボーチンは、月に一度だけ行くスーパーで、自分と同じ重装備の女性チェン・ジンに遭遇。好きでもないチョコレートをなぜか毎回万引せずにはいられない彼女も重度の強迫性障害です。
外界の「汚いもの」から身を守るロングのレインコートにマスクにゴム手袋という重装備の二人は、出会った瞬間に「やっと出会えた、自分を理解してくれる運命の人」と信じて付き合い始め、やがては一緒に暮らし始めます。
冒頭ではボーチンの日々のルーティンが描かれるのですが、なんというかとにかくすごい。潔癖症の人が「むやみに手を洗う(洗わずにはいられない)」というのは聞いたことがありますが、シャワーに入れば体の隅々までを、それ肌がガッサガサになっちゃいますよって勢いでブラシで洗い、掃除も家の隅々まで、それこそ家具を全部動かして裏の裏まで掃除します。
ベッドメイクも完璧で、羽毛布団をチョップして羽毛の境目を作りながら、きれいに、枠があるみたいに四角くたたむ手順には結構感動して、真似したくなりました。
強迫性障害がテーマなのに描かれる世界はキュートでポップ。可愛らしい色彩感覚とか、二人のファッションや髪型も独特で個性的です。そして何しろチェン・ジンがちょっとユニークな人で、いちいち面白い。
付き合い始めた後に彼女が提案する「ばい菌にどこまで耐えられるか」デート――二人で衛生的にちょっと怪しげな店に行ってご飯を食べる――とか、笑っちゃいけないんでしょうが、めちゃめちゃ可笑しい。そもそもそんなことする前に「外出るだけで重装備」の部分からチャレンジすりゃいいのに!なんて思います。
付き合い出した「運命的な二人」は、「決して変わらず、ずっと一緒にいようね」と約束するのですが、なんとある日ボーチンの強迫性障害が「ストン」と治癒。翻訳家として家で仕事をしていたボーチンは、就職して、チェン・ジン以外の外の世界とつながり始めます。そのときに二人の関係がどうなるのかが映画の見どころ。
例えば「一緒に同じ夢を追っていたのに、片方だけ叶ってしまった」とか「貧乏だった頃のほうが幸せだった」とか「子供はいらないと言っていたのに、急に子供が欲しいと言い出した」「家庭に入るって言っていたのに、仕事をしたいと言い出した」とか。強迫性障害は、そういうあらゆる恋愛における「変化」のメタファでもあります。
チェン・ジンはかつての関係に固執しどんどん辛くなってゆき、チェン・ジンもチェン・ジンだけど、ボーチンちょっとひどくない?――と思ったところで、思いも寄らない斜め上からの大どんでん返しが!
台湾映画の独特の可愛さと感性を、ぜひぜひ体験してもらいたい作品です。
『恋の病 〜潔癖なふたりのビフォーアフター〜』
監督・脚本/リャオ・ミンイー
出演/リン・ボーホン、ニッキー・シエほか
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https://filmott.com/koiyama/
※8月20日(金)シネマート新宿・心斎橋ほか全国順次公開
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