憎めないヤンキーや組長の息子、不倫夫に、ダメ上司をサポートする部下、事件を解決する刑事のナイスバディなど、役柄によってまったく印象が変わる俳優の塚本高史さん。そのどれもが、記憶に残るものばかり。若手の名バイプレイヤーといわれる塚本さんは、後輩役者からはいい兄貴として慕われ、先輩役者からは信頼される存在でもある。そこには、塚本さんの人に対して真摯に接する「人と向き合う気遣い」があるという。
現場の喫煙所でする会話は、とても大事な時間
『木更津キャッツアイ』のおバカで短気でも憎めないアニや、『タイガー&ドラゴン』の長いモノにすぐに巻かれちゃうけど憎めない銀次郎。ヤンチャキャラばかりなのかと思うと、『ホリデイラブ』では不倫で家庭崩壊する男性を演じていたり、まさに作品によって、いろんな顔を見せる俳優の塚本高史さん。今やドラマや映画で、若手バイプレイヤーとして欠かせない存在になっている。
「バイプレイヤーといわれることはうれしいですね。自分自身、主役というよりも脇をしっかり基礎固めして、主役や作品を際立たせたいと思う性格で。自分が自分がというよりも、人と何かを作り上げていくことが好きなんですよ。
現場でも、喫煙所でたばこを吸いながら、共演者やスタッフさんと待ち時間に話すのが、ものすごく好きですね。そこで生まれる空気感もあるし、ちょっとした休憩時間なんですが、そこで何気ないことを話す時間がものすごく好きなんですよね」
しかし、最近は撮影所での喫煙も厳しくなってしまってスペースも限られている。さらに、コロナ禍で喫煙所に入れる人数も制限されるため、「だったら我慢しようか」と思うことが増えているという。
「そういう厳しい現状に、だったらこれを機にやめればといわれることもあります。でも、やっぱり僕にとってたばこを吸うことは大事な時間で、頭の切り替えだったり、人との間をつなぐものだったりするので、当面やめるつもりはありません。
10年ぐらい前まではどこでもたばこが吸えましたよね。それは僕のような喫煙者にとって都合がいいことだったと思うんですが、たばこを吸わない人のことを考えようという意識が生まれて、吸わない人たちが主張できる世の中に変わりましたよね。これってものすごくいいことだと思うんですよ。そっか、吸わない人にとっては迷惑なこともあったんだな、という気付きは喫煙者にとってとても大事なことですから。でも、そのうえで喫煙者もどうすべきかを考えている人は多いと思うんです。マナーを踏まえて吸うことが前提ですが、互いの気持ちにもう少し歩み寄れたらいいと思いますね」
マナーも気遣いも相手に対する想像力
塚本さんは、マナーや気遣いにとって最も大事なのは、相手に対する敬意と想像力だ、と話す。
「これは役者の仕事だからということではなく、人の気持ちを見て行動することってとても大事なことだと思うんですね。“それって空気を読め、っていうこと?”と思う人もいるかもしれないですが、空気を読むというのは、乗り気じゃないけど、まぁ合わせておくか、という感覚ですよね。そうではなく、僕は尊敬できる先輩とか後輩には、いい意味で気を遣いたい。先輩と付き合うなら礼儀も必要だし、その人に関心を持って向き合いたいと思っています。後輩にはそういう風に先輩と接している自分の姿を見てもらって、人の気持ちを見るとはどういうことなのかを感じてほしいなと思っています」
いい意味で上下関係は必要だし、尊敬し合える関係性が思いやる気持ちにも結び付くはず、と言う。
「特に、コロナ禍になってから、人を見て気遣うことが欠落していると思いますね。リモートだけでは伝わらないものがありますからね。それにリモートだと、上半身は着替えていても下半身はパジャマだったりもする(笑)。ラクでいいけれど、嘘の姿でもあり、本気で相手と向き合っているのかというとそうではないと思うんです。
オンラインやリモートだけでなく、SNSいじめが起こるのも、こういう見えないことによる緩みが思いやりのない人間関係をつくる気がします。僕はリモートでも下半身までしっかり着替えて、自分のなかで適当にならないようにしています。些細なことですが、こういったことも人には気遣いとして表れると思うんで」
同様に、このような姿勢は言葉遣いにも表れると塚本さんは言う。
「僕も敬語がどこまでできているか自信はないですが、僕が乱暴な言葉を話すときつい言葉になってしまうことがあります。汚い言葉も同じです。だから、できるだけきれいな言い回しや言葉遣いを意識しています。言葉を使う職業に携わっていて、言葉が人に与える印象や力はとても大きいと常日ごろ思っているので」
確かに、長くナレーションを務めるNHKの人気番組『岩合光昭の世界ネコ歩き』でも、塚本さんの語りは猫好きの心理をついた優しい口調で人気がある。猫と人にも寄り添い、言葉遣いも優しい。ドラマと違った印象がある。
「優しい空気感がある番組なのでそのあたりは自分でも言葉遣いは気にして、言い換えることもあります。
でも、言葉を使う仕事をしていて本当に思うのが、一言で人の心をつかむこともあれば、ダメにすることもあります。ネット上に人を罵倒する言葉をよく見かけます。見えなければ、面白ければ何を言ってもいいみたいな思考はそろそろ考えなくちゃいけない時期に来ている。気遣いというよりもこれは基本だと思うんです」
塚本高史(つかもとたかし)
1982年10月27日生まれ、東京都出身。ドラマ『職員室』で’97にデビュー。2000年『バトル・ロワイアル』で映画初出演。『木更津キャッツアイ』『タイガー&ドラゴン』『アウトレイジ』『刑事7人』など話題のドラマ、映画に多数出演。