映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『プロミシング・ヤング・ウーマン』をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました!
ポップな毒に満ちた、シスターフッド復讐劇
幼い頃から優秀で医大に進学したキャシーは、幼馴染で親友のニーナを襲った「ある事件」をきっかけに大学を中退。30歳を目前に、カフェの店員をしながら平凡な毎日を送っています――と見せかけて、夜な夜なバーに繰り出し、泥酔した女性を狙う男たちを「泥酔したフリ」で待ち構えては、制裁を加えるというものすごい危険なことをやっています。キャシーには根深い男性不信があり、当然ながら、恋にも結婚にも全く興味なし。
そんなある日、カフェに大学時代の同級生だった気のいい小児科医ライアンが現れます。学生時代から彼女のことを好きだったというライアンは、偶然の再会をきっかけに彼女に熱心にアプローチしてきます。優しくユーモアもあり、それでいて紳士的なライアンに、ガードを緩めていくキャシー。
その一方でライアンから驚くべきことを聞き、怒りをあらわにしてゆきます。それはあの事件――パーティーで酔いつぶれたニーナをレイプした男、それを冗談か遊びであるかのように煽った人、レイプされた側が悪いかのように言った人、加害者を処罰しなかった学校の責任者などが、今ものうのうと平和に暮らしていること。キャシーはその連中にツケを払わせるべく、復讐を開始するのです。
こうして書いてみると、すごく暗い陰惨なイメージがありますが、映画の印象はどちらかというとポップで、観終わった後はスカッとする感じ――まあ女性限定ですが。色合いとか笑いとか、ヒロインのキュートなワルっぷりとか、イメージとしては『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』とすごくよく似ています。ハーレイ・クインを演じたマーゴット・ロビーが、脚本に惚れ込んでプロデュースしたのがすごくよくわかる。
彼女はまだ30歳ですが、ハリウッドで最もパワフルな女性の1人。そしてすでに「強い女性」のイメージが強すぎる自分でなく、これまでどこか「守られる女性」のイメージだったキャリー・マリガンが主演したのもすごくいい。オスカーの主演女優賞は逃しましたが、印象的な名作『わたしを離さないで』とは全く異なる女優としてリボーンした感じ。すごいです。
復讐なんて辞めてライアンとの恋に生きればいいじゃないか!と多くの人が思うと思うし、そこで自分の恋を選んで「ごめん」って言ってしまうのが、これまでの映画が描いてきた女性像ですが、この映画はそれを最も痛快な形で裏切ってくれます。
もちろん女性でも、彼女のあり方を「間違ってる」と感じる人も多いかも知れませんが、「このまま目をつぶって生きていくほうが、ずっと幸せ」という女性はいないんじゃないかな…と私は思うのですが、みなさんはどう思うでしょうか。女子同士で観に行ったら、一晩中でも語れそう。ぜひリモート飲み会でお楽しみ下さいね。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』
脚本・監督/エメラルド・フェネル
出演/キャリー・マリガン、ボー・バーナム、アリソン・ブリーほか
(c)2020 Focus Features
https://pyw-movie.com/
※7月16日(金)TOHOシネマズ日比谷&シネクイントほか全国公開
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