映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『1秒先の彼女』をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました!
消えた「一日」を探して、辿り着いた「忘れていた恋」
主人公のシャオチーは幼い頃から何をしても人よりワンテンポ早くなってしまう30歳女子。合唱すれば一人輪唱状態だし、水泳も短距離走もいつもフライング、写真を撮れば30年間はずしたことなくいつも目をつぶっています。
今は郵便局の窓口で働いているのですが、人より早く気づくし、人より早く動くので、仕事はかなりデキる方なんだけども、いかんせんモテません。そんな自分の人生を嘆くこともあるのですが、「誰にも愛されないなら、自分を愛す」をモットーにそれなりに楽しく生きています。
そんな彼女の前に唐突にイケメンが現れたところから、物語は始まります。モテないシャオチーにしては相手が妙に積極的で、偶然の出会いからの展開がやけに早すぎる――わざとらしくいい人だし、理想の男子すぎる。コイツは絶対に怪しいやつだ・・・と思っていると、これまた唐突に「バレンタインデーが消える」という謎の事態が勃発。
その「怪しい男」とバレンタインデーのデートの約束をし、いつもとは違う可愛い服着てバスに乗ったら、そこからプッツリと記憶が途切れ、目覚めると翌朝の自宅のベッドの中だったのです。「怪しいイケメン」は忽然と消え、なぜか全身日焼けしまくりで。
混乱のなかで見つけたのは、近所の写真館に飾られていた、海辺で撮ったらしい自分の写真です。服装からどうやらバレンタインデーに撮ったっぽいのですが、もちろん記憶はありません。何しろ驚きなのは、目をつぶっていないこと! シャオチーはその写真を糸口に「消えたバレンタインデー」の謎を、自ら解明しようと奔走します。
映画はその過程を追っていくのですが、これがどこか『千と千尋の神隠し』に似たファンタジーが入り混じって、すごく可愛い。同じアジアでも、韓国のファンタジーはどこかダイナミックで力強い印象がありまが、台湾のファンタジーはちょっと覗き込んだ片隅に、ちまちまっ、と別世界があるような感じで、日本の「可愛い」の感覚と似ている感じがします。
部屋のタンスの中に「記憶を管理するヤモリ(のおじさん)」が住んでいるところなんて、まさに宮崎駿って感じなのですが、この人が意外と重要。消えた一日には、彼女が忘れていた記憶と関係しています。そしてずっと彼女のことを思い続けていた可愛くて優しい「のんびり男子」の存在が見えてくるのです。
この映画を観て、台湾には西洋のバレンタインデーと七夕バレンタインデーという恋人のための日が年に2回あることを初めて知りました。ここで消えたバレンタインデーは「七夕」のほうで、そう思うと二人の再会もぐっとドラマチックに思えます。キュンとしてじわっと沁みる台湾のすごく幸せなハッピーエンドをぜひ味わって下さいね。
『1秒先の彼女』
監督・脚本/チェン・ユーシュン
出演/リウ・グァンティン、リー・ペイユー、ダンカン・チョウ、ヘイ・ジャアジャアほか
(c) MandarinVision Co, Ltd
https://bitters.co.jp/ichi-kano/
※6月25日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
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