映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『ローズメイカー 奇跡のバラ』をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました!
崖っぷちのバラ園、一発逆転の秘策
フランスのバラ園が舞台で、主人公は「ローズメーカー」と呼ばれるバラの開発者…と聞くと、めちゃめちゃ優雅なイメージありますね。ええ、もちろん美しいバラもすごくたくさん出てくるんですが、映画はそのイメージをきっちり覆してくれます。部下を持つ働く女性が見るとグッとくる映画、というんでしょうか。
舞台はフランスの地方の町で、主人公は父親から受け継いだバラ園を営む女性エヴ。彼女は天才的「ローズメーカー」として知られる女性です。でもこのところはコンクールでも大手企業ラマルゼル社に負けっぱなしだし、その職人気質ゆえの頑固さと、辛辣な物言いも災いしてるんでしょうか、経営もいまいち上手くいっていません。
足りない人手を補おうにも経費削減でうまくいかず、格安で雇うことができたのは職業訓練所の「脛(すね)に傷持つ」ド素人3人。会社は借金だらけだし、従業員にはイライラさせられっぱなしだし、開発は上手くいかないし――そういう窮地に大手企業はつけ込んでくるんですね。
「最近はイマイチだよね、倒産前に高く買ってやってもいいよ」とかイヤミっぽく近寄ってきて、バラ園を彼女の技術ごと手に入れようとしています。崖っぷちのエヴは、それでも「絶対に売るもんか!」と、次のコンクールの優勝を目指し「最高のバラ開発作戦」を開始します。
この作戦が「ローズメイカー」という言葉の優雅さとはかけ離れた「破れかぶれ」で、突っ走るエヴに引っ張られてイヤイヤついてゆく3人の従業員たちは、これまた素晴らしいドジっぷりで思わず笑っちゃう。でもバラ園以外に行くところのない4人は、やがてそれゆえの一生懸命さで家族のような絆で結ばれてゆきます。
特に母を失っている前科者のフレッドが、エヴの導きで人生を見つけていくところは感動的。こういうとき、女性キャラクターは「母親的」に描かれちゃうもんですが、この作品のエヴがあくまで頑固職人、師匠として描かれているのも、個人的には好感です。
えええ!どうなっちゃうの!と笑っちゃうのは、これら一連の作戦が何一つ功を奏しないこと! でも最終的にはハッピーエンドになるとわかってるのに、その過程を面白く見せられるのが良質なコメディです。ラストは「やった!」という痛快な気持ちが味わえますから、ご安心を。
『ローズメイカー 奇跡のバラ』
監督・脚本/ピエール・ピノー
出演/カトリーヌ・フロ、メラン・オメルタ、ファツァー・ブヤメッド
THE ROSE MAKER (c) 2020 ESTRELLA PRODUCTIONS – FRANCE 3 CINÉMA – AUVERGNERHÔNE - ALPES CINÉMA
https://movies.shochiku.co.jp/rosemaker/
※5月28日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
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